国見英の憂鬱


うちの3年生は多分ちょっと変。


「痛い!岩ちゃん痛い!」
「及川おまえふざけんな!このクソ川!」
「岩泉、それ俺も当てはまるからすげえ嫌だ」
「ぶふっ、まっつんどんまーい!」
「及川、わかってると思うけど、おまえこのあともっと酷い目にあうと思うよ」
「マッキー怖いこと言わないで!」


目の前で繰り広げられる毎度毎度の繰り返し。及川さんがなんかやらかして、それを岩泉さんが怒って、松川さんと花巻さんが火に油を注ぐ。もともと中学のときから及川さんと岩泉さんのことは知っていたしあの関係には慣れていたけれど、まさかそれに+2人、いや正確には+3人されても結局彼らはあのころのままなのだから、どうなっているのだと言いたい。

今だって青と黄色と呈したボールがうまいこと及川さんの後頭部に吸い込まれるように飛んでいって、「ぐえ!」なんていう声が聞こえる。こういう時は巻き込まれないようにするのがベストだ。というかよくもまあ部活のあとにこんな風に騒げるなという話で。俺なんか今すぐ家に帰ってシャワーを浴びてベッドの中に入りたいというのに。どこまでも体力馬鹿な先輩たちにはついていけない。

そう思ってタオルで汗をぬぐいながら踵を返そうとした瞬間だった。


「まあたやってんの?国見ちゃんもあんな先輩もって大変だねえ」


左耳の下で1つにまとめた長い髪を揺らしながら、楽しそうに笑う1人の女の人。青葉城西バレー部のマネージャーで、名前は苗字名前さん。俺がさっき+2人から+3人に変えたのは、紛れもなく目の前の彼女がいるからだ。


「本当毎度毎度勘弁してほしいんですけど」
「まあ、そう言わずに見守ってあげてよ!」
「あのせいで部活終わるの絶対遅くなってると思うんです」
「それは否めないねぇ」
「俺早く帰りたいんですけど」
「まあまあ、あんな先輩たちだけど、国見ちゃんだって嫌いじゃないでしょう?」
「っ」


悔しいかな、彼女の言葉に俺は言葉を失ってしまう。俺は早く帰りたくて言い争いをしている先輩たちがうっとうしい。そうだ、うっとうしい。けれど、どうしても嫌いにはなれなかった。彼らの中に入れないことがほんの少し悔しくもあるような、ないような気がしなくもない。とにもかくにも、そんなこと絶対にあの人たちには知られたくない。そんな思いを込めて名前先輩を見やれば、人差し指を立てて内緒だよ、とでも言わんばかりの笑顔で微笑まれた。


「でもまあ、あいつらのあれは長すぎるし、そろそろ止めてくる!」


そうして、彼女は首に下げたホイッスルを手に、一歩一歩先輩たちの方へと足をすすめてしまう。ふと見た先輩の背中は小さくて、いつもあの人たちの中にいるときには全然感じないのに、ああ、女の子なのだと悟る。けれど自分よりもはるかに大きい男4人に向かっていく名前先輩はとても頼もしくて、悔しい、寂しい、色々な感情が胸のあたりにつっかえる。本当、俺らしくもない。


「あんたたち!うるさい!さっさと帰る支度しなさーい!!」


ピーッ!!!と体育館いっぱいに反響する笛の音。ぴたっと止まる岩泉さんの拳と、及川さんの反撃。それから、花巻さんと松川さんの野次も。なんだかんだ彼らは5人で1つ。いつか俺もあの中に入れる日がくるだろうか、そんな途方もことを思いながら先ほどの名前先輩との笑顔を思い出していた。



(14.06.01 虹子)
 

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