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09君を迎えに行きましょう


船に開いた穴を無感情に見つめる紫の瞳。
スキャンすると、中に生命体の存在は確認出来ない。外部から攻撃によってこじ開けられた痕跡。焦げ痕は触れてももう冷たく、スィンドルは静かにそこから内部へ入った。

(やられましたねぇ……まさか艇まで"アレ"を盗りにくるとは)

思ったより、船へ戻るのに時間がかかってしまった。襲撃のダメージですぐには動きそうにない。
商品はいくらか無くなっているが、セキュリティーの厳重なメイン武器庫はほぼ無傷。コクピットでメイン電源を起動し、残った船内カメラの映像を辿った。


――スィン、ドル…!スィンドル!


煙幕で当時の状況はよく見えない。だが、その音声だけは嫌にリアルに残っていてスィンドルはカメラアイを瞬かせた。

奇妙なざわつき。熱くなるスパーク。
久しく聞いた彼女の声は、忘れていたようで、しかし心にじわりと染み入るような熱を灯した。唇が歪み、思わずその事実に苦笑が漏れる。


『――厄介な非売品になってしまいましたねぇ』


扱いに困る商品など今までなかった。世渡りは上手い方であると自負していたし、実際取引で失態を犯した事などこれまで数える程しかない。
執着心も、暗い欲と損得勘定が全て成された上での事。そうだったのに。


『、……はぁ、全く。』


少しだけ苛立ちを含んだ溜め息を吐いて、スィンドルは変形。街へと戻っていく。無数に飛び交う電波を広い、星の数ほどある情報をより分け彼は二人の痕跡を探した。

(してやられたままでは割に合わないですからねぇ)

私は商人ですから。
対価はきちんといただかなければ、ね。


『ルナ…、さぁ私の子猫はどこにいるんでしょうねぇ?』


君が僕を呼んだから。僕は君のもとに。
そんなロマンスは到底似合わないから。

手段は選ばず君を、もう一度手に入れに行くことにしましょうか。
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2012 08 17

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