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28約束を交わして


通信が途切れた。ビジョンを辿るが、真っ黒で何も写しだされない。
彼のドローンが最後に視た映像は、あの"女"の顔。歪んだ表情で、こちらに手を伸ばしたところで終わっていた。


「オートボットだ!生きてる!奴らが生きてるぞ!」


ちょうどその時、人間の駒が喚きながら、ビルから出てくる。サウンドウェーブはその悲鳴に閉じていた瞳をゆっくり開いた。

(レーザービークはやられたか……)

メガトロンの命で街の中心部へ続く開閉橋を全て遮断する。彼はビルから飛び降りると、艦隊への指示を出し始めた。


"街へ侵入したオートボット共を殺せ。…ただし、赤のオートボットは拿捕せよ"


口元を歪め、紅いカメラアイを細める。最も効果的な手段で、残酷な最期を。サウンドウェーブも自ら戦線へと歩みを進めた。

(…遺体は、我のレーザービークと共に添えてやろう。)

狩りが、始まる。

***

市街地の細い道路をビークルモードのディーノに乗せられヒスイは進む。ある程度、中心部へ距離を詰めればまた別行動になる。
傍で守る。心を満たす言葉をくれたが満足な武器もなく彼らの傍に居ては戦いの妨げになるのは目に見えていた。


「…ディーノさん。降りたら私はエップス達と行きます。」
『ヒスイ、』
「正しい事と思う事をさせて下さい。…お願い。私は弱いけれど…それでもやっぱり人を助けたい。アナタにも後悔して欲しくないんです。」
『…』


完全に破壊されていなかった無人偵察機によって管制塔に柱のあるコントローラーの位置は告げられた。後は今、自分が人間として出来る事をしなければならない。
空の固い包囲網を考えればただ応援を待つ事は出来ない。皆が命を懸けている。高層ビルに上がり、こちらからもロケットミサイルで柱を狙う。敵の攻撃を交わしつつ、廃墟と化した建物内に彼らは一旦姿を隠した。
ディーノから降りて、エップス達とルートの確認をしていると不意に背中から影が差す。


『ヒスイ、』


別れ際、サイドスワイプの声に足を停める。彼はただ優しくヒスイを撫でるように手を伸ばしてから背を向けた。


『死ぬなよ、ヒスイ。この星で、生きてまた会おう。』


途方もない戦いが始まる前に、それは心強い約束だった。
ディーノとはまた違う、心許せる友達。彼女は力強い表情で笑みを浮かべた。

オートボット達が敵の注意を引いている間に目的のビル内に入ると、階段に隠れている多くの民間人が目に入った。かなりの人数、ここもずっと安全だとは言えない場所だ。
ヒスイは仲間と上階を目指そうとした足をまず彼らの方へと方向を変えた。


「おい、ヒスイ!」
「行って!まず彼らを誘導しないと!」


敵に感づかれれば今度はここが危ない。ヒスイはまず、敵から見えにくいビルの合間を縫って低いビルへと移るよう指示を始めた。
目の前の命を見捨てて、未来など救えない。彼女は民間人の援護をしながら、敵の襲撃を防ぐ事に専念した。
ふと、地鳴りがしているのに気付く。地震かと壁に手を付くが、見る間にそれは大きな波となり、彼女はその場に尻餅をついた。

「、ッ」


立っていられない程の振動。見てヒスイは言葉を失った。巨大、などという言葉では言い表せない程の大きなディセプティコン。それがコンクリートを容易く割り、上階のエリアを突き抜けた。

(エップス…みんな)

落ちてくる細かい砂と大きな亀裂に恐怖は底知れず煽られるばかり。更には、そのビルを襲うディセプティコンの傍にもう一人敵の姿を彼女は捉えた。
一際大きな赤い一つの眼は、ルビーのような美しい輝きと禍々しい血のような色を兼ねて、静かにこちらを見つめていた。腕の大きなキャノン砲がゆっくり持ち上げられる。

(逃げ…、な、ければ。)

何とか腰を上げ立ちあがりヒスイはもつれる足をフル稼働させるが、彼女は崩れる落盤の煙に方角を見失った。

「―――、ぅ…!」

外の光を僅かに感じる。近づいてくる鋭い爪に気付く余裕もなく、ヒスイはそのまま瓦礫の隙間にただうずくまる事しか出来なかった。
―――――――――
2013 01 28

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