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※20そのまま夢に溺れて欲しい


水分の多い柔らかな身体にイライラする。
脆弱な肉体。こんな身体で人間達は常に前線に出て戦っているのかと考えるとそれこそ狂気の沙汰だとディーノは思った。
自分達金属生命体より遥かに短命で、弱い。薄い皮膚が裂ければ血が出てすぐに生命の危険に晒される癖に。
いつも、いつも他人の事ばかりである意味一番身勝手だ。
彼は気配のする扉の前に立つと、躊躇う事なくドアノブを回した。ノック等の礼儀作法などディーノが知る由もなく、彼は無言で室内に身を滑り込ませる。唇から漏れる少し乱れた呼吸音。苦しげな吐息に、ディーノは食い入るよう横たわるヒスイを凝視した。顔を上からじっと見下ろす。

…生きている。
その事実に安堵するが、もどかしい思いが募る。


「…ヒスイ」


確かめるように名を呼ぶ。こんな、弱々しく眠る姿を見たかったわけではない。
あの芯の強い瞳で、大丈夫だと笑う顔が直に見たくて。加減の解らないままそろそろと手を伸ばし、ほんのり赤い頬に触れる。不思議な感触。普段は爪先程しかない顔が今は掌で覆える。
思えば今までこれ程近くで彼女に触れた事はない。触れられた事はあっても、触れようと動いた事など。ビークルモードのシートに座らせるのとはまた違った、近しい距離。伝わる鼓動が心地よくディーノはそのまま立ち尽くした。


「…ん、」


不意に、寝返りで顔を揺らしたヒスイがディーノの手を無意識に取る。驚いた彼だったが、そのまま振り解かずじっとしていると彼女の顔が少し和らいだ気がした。


「…ぅ、ん……ディー…ノ」


その拾った音声に、彼は思わず咄嗟に飛び退いた。
口に手を当て目を見張る。彼女の脳波に変化はなく変わらず眠っている。おかしなのは自分。スパークがざわざわと変に騒いで彼は彼女から目を逸らした。

戻らなければ――これ以上、おかしくなる前に。
困惑に歪んだブルーアイが、もう一度だけヒスイを捉える。感情に名前は付けられず、ディーノはそのまま部屋を後にした。


まるで玩具箱を仕舞うよう、彼はその扉を大切に閉じた彼に通信が入る。

――ディーノ、人間の決定が下された。
基地を離れる準備をするのだ。

――…分かった、すぐに戻る。

(Don't say good-bye.)

別れは云わずに行く。
また会えると、信じているから。
―――――――――
2012 07 13

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