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18選択


強い師だった。彼を越える事が目標で、これからもずっと共に戦っていくものだと思っていた。なのに彼は亡骸すら残さず消えてしまった。
友達が傷ついた。地球に来て初めて出来た友達。いつも優しくて、物事に対して真摯的で。基地で出迎えてくれる際に見ていた優しい表情。当たり前だったそれが苦痛に歪み、瓦礫と金属の海に臥していた。

――覚悟はある。一度、戦場に出れば必ずしも無事に帰れる保証はない。

だが、別れはあまりに唐突過ぎて…理不尽で。どちらも傷つくべきではなかった筈なのに。サイドスワイプは表現し難い感情を持て余した。


『サイドスワイプ、どうした!?殺せよ!!』


ディセプティコンの溢れる街の中で、敵のオイルにまみれたディーノが吼える。この所、穏やかな彼を見慣れていたせいか蒼い眼を憎しみに燃やす姿がどこか現実離れして思えた。
同じく周囲の敵を殺すが気は晴れない。思考は冷たく、ディーノのように夢中にはなれなかった。

何故。
理由はもう解っている。
ただ認めたくないだけで。

不意に街の中心から強烈な閃光が放たれる。見覚えのある光は、スペースブリッジから漏れるもので刹那、それぞれが動きを止めてその輝きを見つめていた。
立ち上る巨大な光の柱からは、次々とディセプティコンが湧いて出てくる。
センチネル・プライムによって奪われた柱がついに起動してしまったらしい。先ほどまでとは比較にならない敵の数にディーノの表情が険しくなる。
しかし未だオイルのしたたるブレードを振るい、彼はディセプティコンの中へ突っ込んで行った。


『…オートボット、退却!退却せよ!』


オプティマスが先陣を退き、体制を立て直すよう仲間達に呼び掛ける。サイドスワイプがそれに反応して、ディーノの腕を咄嗟に掴むが、もの凄い勢いで払われた。


『ディーノ!』
『…邪魔すんな!司令官の命令でもこのまま基地に帰れるか!!』

『……この劣勢でお前が傷つく事を、きっとヒスイは望まない。俺もだ。』


自分でも吃驚するくらい冷静な言葉にサイドスワイプ自身、驚く。

――本当は認めたくない。目の前の凄惨な光景も、…基地での事も。だが、怒りに任せて間違った選択をすればまた友達が泣くはめになる。
先に逝った者を弔う時、何時もひっそりと心を痛めていたヒスイ。海辺に独り佇む姿は普段からは想像もつかない程脆く…、見えない大きな傷をあの小さな背中で受け止めていた。
僅かな沈黙。肯定の言葉は出ないがディーノの荒々しい動きが苦々しく止まる。無言で腕のブレードを仕舞うと、彼はそのままビークルモードに。サイドスワイプはそれにほっと息をつくと、自らもコルベットの型を取り退路の確保へと移った。
地球人であるヒスイの存在が、彼を動かせる。そのイレギュラーに未だ驚かされるものの、彼女に対してディーノが大きく心を砕いているのは確かで。サイドスワイプはヒスイの早い回復をただ切に祈った。


(おかえり、サイドスワイプ!)

声を聞かせて、

(キミ自身がどうか俺たちの還る場所であって欲しい)
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2012 06 07

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