×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



13共鳴


ワシントンの中心に程近い住宅街で、ディーノはエンジンを停止させた。
立ち止まった景色にワイヤレスのイヤホンを外してヒスイが顔を上げれば、先日見たサム・ウィトウィッキーの姿とその隣にもう一人。
白髪混じりの男性の顔は見覚えのあるもので、彼女はかち合う視線にフェラーリを降りると静かに彼に一礼した。


「どうも、シモンズ捜査官。お久しぶりです。」
「…見た事のある顔だな…、ああ!思い出したぞ、貴様NESTの……」


相変わらずNESTに良い心象を抱いていない様子のシモンズに彼女は小さく苦笑を漏らす。レノックスとは未だ(一方的にだが)犬猿の仲である彼。
眉間に皺を刻み勇んで近づいてきたシモンズだが、ディーノが低く唸るように機械音を上げると彼の足はその場で止まった。


「…随分物騒なドーベルマンを連れているな、お嬢さん。」
「私の大切な仲間です。彼があなた方に協力したいと申し出てたので私が同行致しました。」


サイドミラーの前に立って彼女は気丈に応対する。
カメラアイに映る横顔はいつもの少し臆病なものではなく迷いが無い。僅かばかりディーノは黙ってその表情に見入った。相変わらず人間は好きにはなれないが、稚拙さすら思わせるヒスイの愚直な感情を不快に思う事は無い。
全く変な人間だ。他の人間が使えば皮肉の一つも言ってやりたくなる"仲間"という言葉も彼女が口にすれば心地よくすら感じられた。人間と仲間だなんてうすら寒いが、ヒスイが吐くならと目を瞑れた。
そして、同時に苛だちが別の方へ。目の前のニンゲンがこちらを卑下するような目でみている事に、ディーノは不満を露わにする。


『オイ、人間。グズグズ無駄な会話をするな。さっさと車に乗れ。俺達も着いた事だ、ディセプティコン調査の再会と行こうぜ。』


バンブルビーの回路から彼らの情報は概ね拾い終わっている。口悪く急かすディーノの声に、振り返ったのはヒスイ。咎めるような思慮深い瞳は彼の嗜虐心を俄かに煽った。


「…ディーノさん、無闇に喧嘩を売るような真似は」


小言は退屈だ。むしろ先程の言葉は彼女の為に吐いてやったようなものなのに。ディーノは瞬時に半形して加減しつつも彼女を乱雑に鷲掴みにする。
驚いて声を失ったヒスイにサイドスワイプが動こうとするが、それを手で制したのは握られたヒスイ自身だった。

一瞬の沈黙。肩で息をするヒスイにディーノの青い眼がすっと細まる。


『黙って俺に乗るか?ヒスイ。』


彼の放つ空気は決して友好的でなく獰猛なものあるのに、彼女の鼓膜を震わせる声はとても甘い。敵に近づきつつある今、彼の精神が獣の如く猛るのを感じ彼女は無言のまま頷いた。
迷う事なく駆けて行くその隣で、出来ることがあるのか。フェラーリのバックミラーに掛けられた石細工がヒスイの心を表すよう、ゆらり。赤い煌めきと共に迷うようそれは揺れていた。
―――――――――
2012 03 22

[ 40/85 ]

[*prev] [next#]