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12引き金に指を掛ける


演習場に足を運んだのは何時ぶりか忘れる程久しかった。
自らの使用ナンバーを入力し、保管庫から銀色のマグナムを取り出す。
擬似ターゲットの前に立って構えると、硝煙の香りが鼻を掠めた。引き金を、引く。久しい反動に手首が軋んだ気がしたが、むしろ懐かしさを覚える感覚であり一頻り撃ち終わった後、ヒスイは額の汗を軽く拭った。

あの日。戦いの場に出向く事を止めたのは、自分の判断だった。思い出すだけで恐ろしい一日だった。メガトロンとの交戦の際、目前で消える仲間に限界を感じた。
もっと自分に力があれば、助けられたかもしれない。銀色の彼に届かなかった、手を何度も恨んだ。
誰にも打ち明けていない事柄だが、彼が一番近くで散った命だった。
武器を扱う事は長けていると思っていた自信は見事に打ち砕かれ、第2の道をヒスイは選んだ。

"貴方、まだ銃は撃てるの?"

メアリングは後方支援に回った資料を見て、笑ったのだろうか。あの言葉の意味を汲み取る事は出来ず、彼女はイヤーカバーを静かに外した。
ディーノを見ていると時々分からなくなる。彼は好戦的で、周りの被害などお構いなしだが、彼のおかげで救われた隊員の命も実は少なくない。敵味方関係なく粗暴な彼であるが、その派手な仮面の向こう側に確かな力を彼女は感じていた。

(私にも……まだ前線で出来る事がある?)

安全装置を戻し、ホルダーに元の位置に置く。
訓練所を後にし、いつものコンピュータールームの自席に戻る。そして起動ボタンに指を伸ばそうとしたその時、ガラスを叩く音に彼女は動きを遮られた。
顔を上げれば、青く鋭い光とかち合う。室内から出れば、ディーノはフェラーリに変形し、隣には既にサイドスワイプも控えていた。


「?どうしたの、出所許可は…」
『バンブルビーから通信が入った。乗れ。すぐに出掛けるぞ。』


呆然と立っている内に運転席のドアが開けられる。
どこへ、問う前に急かすようにアクセルを吹かされ、彼女はびくっと身を竦めた。


「…私、まだ勤務中です。」
『尚更だ。オマエが来ないなら俺は好きにさせてもらう。戻ってくるか分からないぜ。』


深いため息、ついで足が従順に動く。階段を下りて、フェラーリのシートに身を預けるとディーノは満足そうに笑いドアを閉じた。


『安心しろ。此処に居るよりずっと有意義に過ごせるぞ。』
「そういう事はちゃんと出所申請してから言って下さい。」


ハンドルをやわく抓るが、終始機嫌良くディーノは発進。先に出たサイドスワイプに続いて、外へ出た。
口には出さないが、感じる緊迫した空気。彼が息抜き以外でヒスイを連れ出すのは未だかつて無かった事だった。信用はしている。が、少しばかり不安が募る。
膝の上で拳を握りしめて、ヒスイは静かに外を見つめた。仕事詰めで建物の外へ出る事が少ない為、見慣れないワシントンの街並みはモノクロな光景。


『Non ti preoccupare,Figlia.』


――貴方は知らない。
貴方の言葉が、行動が日ごと膨らみどれ程大きく心を占領しているか。

(彼が優しい言葉を紡ぐ時、伊語なのを私は知っている)
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2012 03 17

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