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06ピエタ


「大佐!レノックス大佐…!」


保健社会福祉省のゲートを潜り、フェラーリを降りた彼女は、格納庫の中で目に留まったレノックスのもとへ一目散に走った。
彼女の声に気付いたレノックスはにこやかに笑い、手を広げる。
敬礼の後、何の違和感もなく彼の腕に収まる小柄な身体。ディーノはそれを横目にビークルモードを軽やかに解いた。


「元気そうで何よりだ。お前、ここに来るの初めてだよな。」
「はい。凄いですね…、ここ。区画がディエゴガルシアよりも精巧に整備されている。利便性も良いし、中継基地にはこれ以上ない出来です。」


目を輝かせてヒスイは景観をぐるりと見渡す。はた、とディーノと目が合うと、彼はあからさまに顔を背けアナウンスされた区画へメンテナンスへ向かった。


「…どうなんだ?アイツとは。今日は機嫌が宜しくないみたいだな。」
「…えぇ。でもディーノさんは優しいです。…それで大佐、ディセプティコンが動き出したって?」
「ああ、チェルノブイリで一戦あってな。詳しくはお偉いさんが到着してから話そう。」


もうすぐ国家情報局長官がお着きになる。
ぽん、と肩を叩くとヒスイの横をレノックスは通り過ぎた。少し厳しくなった横顔に、思ったより深刻な状況なのかもしれないと感じる。
それとなく建物の奥へ進むと、アイアンハイドと視線が合う。彼が軽く手を上げたので彼女はそちらへ歩み寄った。


「お久しぶりです、アイアンハイド。」
『あぁ、よく来た。変わりはないか?』


足元へ近寄ると大きな指が伸びてきて、彼女の小さな頭を撫でる。口数も多くはないし、オートボットの中でも最も武器を身に付けている一見近寄り難い彼であるが、時折こうした柔らかな態度を表してくれるアイアンハイド。彼女が嬉しそうに目を細めると、彼も珍しく口元を緩め…そして不思議そうに呟いた。


『…変わったエネルゴン反応が出ているな。』
「…え、」
『ヒスイ、お前』


アイアンハイドが何か言いかけたその時、不意に彼女の体が浮き上がる。悲鳴を上げる間もなく、彼女がひゅっと息を呑むと、赤いボディが視界いっぱいに広がった。


『ったく。うろちょろする人間の子守は手間が掛かる。』
「…ディーノ、さん」


装甲の窪みにヒスイを入れて、ディーノは短く排気を漏らす。
アイアンハイドはそれを見て、それ以上追及せず、再び武器の手入れに戻った。ぎゅ、とディーノにしがみついて、彼女は下唇をやわく噛む。


「…気づいて、たんですね。」
『――。接触があったらすぐ報告しろ。でなきゃ俺がお前についている意味がない。』


終始、不機嫌だった理由が分かり、彼女はただただ申し訳なさそうに頭を下げる。
口調こそ相変わらず棘があるが、彼は本当に優しくなったと思う。ディーノが怒りを感じるのは人間である自分を本気で守ろうとしてくれているからだ。こっそりディーノに寄りかかり、ヒスイはこつ、と頭を寄せた。


「未確認の金属生命体との接触がありました。でも敵だと確証が、なくて…。ごめんなさい…絶対的に警戒感が足りなかったのは確かです。軽率でした。」


そろそろと彼女はディーノの顔をゆっくりと見上げる。真正面から向き合うと先程のようなイライラした空気は消えていて、静かな青い視線がヒスイをじっと見つめていた。


『一つだけ約束しろ。死ぬな。何があっても。そのクソ短い寿命以外で、死ぬな。』


ああ、いつから貴方はそんな人間臭い感情を私に向けてくれていたんだろう。
思いがけず聞こえた温かな台詞に、彼女は目頭が熱くなるのを堪えて、精一杯の笑顔を向けた。
―――――――――
2012 01 21

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