03謝罪
兄ヴェルゴが大学に進学してから一月近くが経った。あの三人での出会いの後、家族が合流してきた為にヒスイはドフラミンゴの追求をそれ以上受けることなく事なきを得た。だが兄伝いで勝手に連絡先を知らされてしまい、ヒスイは拒否する勇気もなく結局彼と繋がりを持つことになった。そして、そこから更にロシナンテとも繋がった。
意外にも連絡して来ないドフラミンゴとは異なり、ロシナンテはほぼ毎日連絡を入れてきた。そのマメさに違和感がある一方で、多分、これが本来の彼の性格なのかもとも彼女は思う。口数は少なかったが以前も彼は優しいひとに違いはなかった。
―――まさか俺達が同い年で生まれ変わるなんてね!
―――うん。何だか変な感じ。私の記憶にある二人は10歳近く歳上だから。
―――兄上はヒスイを同じ大学に俺達を入学させたいみたいだけど、行きたいところは考えてる?
―――うん。私は県内にしようかなって思ってる。まだ何処を受けるかは決めてないけど。
半分嘘で半分は本当だった。兄が家を出た今、自分も外へ出ていくとなると、生活費が実家への大きな負担になる。しかし、彼女はこんな事になる前は兄と同じ大学を目指そうと考えていた。
推薦枠で入学できれば学費もいくらか抑えられるし、少し広く部屋があれば兄とルームシェアして暮らすことも可能だと考えていたのだ。
しかし、ドフラミンゴの事を考えると間違いなくその案は論外だ。彼が部屋に出入りするであろう可能性が高すぎて安心して暮らせない。
(…まあ、他にも候補はあるんだし。時間はまだあるわ。)
携帯を置いて、問題集を開く。勉強は昔から好きだった。過去の記憶を得てからは尚更。幾度も思うが彼女は今、満たされていた。家族がいて、毎日が穏やかに過ぎて、勉強して友達がいて。それだけでヒスイは嬉しくて、過去の記憶にあるドンキホーテ兄弟に関わる事を俄に恐れていた。
***
「…じゃあヒスイは家を出る気はねぇって事か。」
「うん。自分の目標だけじゃなく経済面も色々考えてるみたいだよ。相変わらず真面目だね。周りをよく見てる。」
弟ロシナンテとの電話でドフラミンゴはヒスイの意思を聞いていた。再会した日、思わず覇気を出す勢いで凄んでしまった為にドフラミンゴは直接連絡を取れずにいた。
怖がらせたいわけではない。傷付けたいわけでも。しかし、かつての記憶に残る愛情は彼女を目の前にすると抑えきれない波となってドフラミンゴを突き動かせた。
(――好きなひとがいます。)
ロシナンテとヴェルゴの情報からでは付き合っている人間は今のところいないらしい。
勢いで出たでまかせか。しかし、そんな冗談をいう性格にも思えなかった。ロシナンテとの電話を終えてから暫し沈黙する。悩んでいても仕方ない。ドフラミンゴは電話帳の画面を出した。ボタンを押す。
「…はい、」
「俺だ、」
もしかしたら出ないかと思っていた為すぐに着信に変わった事にドフラミンゴは内心、少し安堵する。週末、ロシナンテが此方に来るからお前も来ないかと誘うと、少し沈黙した後、分かりましたと返事が返った。
「…ヒスイ、」
「はい、」
「この間は悪かった。そりゃ好きなヤツぐらいいるだろう。」
「その話は…」
「蒸し返すつもりはない。ただ謝っておきたかっただけだ。」
じゃあな、短く告げてドフラミンゴは本当にそれだけで電話を切った。ヒスイは戸惑う。
かつての世界で、闇の世界を笑って渡り歩いていた男が、今、まるで普通の青年のように振る舞い話しているのが疑問でならなかった。
「…あのひとの考えてる事が分からない。」
頭を抱える。断れずに承諾してしまったが、四人でどんな顔をして会えばいいのか。考え出すと頭痛がしてきて彼女は意気地の無さに嘆息した。
胸が奇妙に疼くのには気付かない振りをした。
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2017 04 04
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