×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



英雄が断たれた場所で


潮風が髪を緩やかに攫う広場。
彼女はそこで身の丈より遥かに高い処刑台を眺めていた。

活気に満ちた街ローグタウン。
かの名高い海賊王ゴールド・ロジャーがその命を落としたして有名な土地だ。
賑わう街にそぐわぬ古びた高い高い処刑台は、いまや観光名所の一つと言えど翡翠色の眼には酷く異質なモノに映り込んだ。


「……エラく熱心に眺めてんな。」


ふと、近くから発せられた声に振り返ると鮮やかな蜜柑色のテンガロンハットが目に入る。少し切れ長の黒い瞳が、ヒスイの視線とかち合った。


「海賊にゃァ見えねェが…ロジャーに興味あんのか?お嬢さん。」


一見、爽やかな風貌の好青年だが、腕にある大きなタトゥーと彼の持つ気配がそれを打ち消す。
若いが、彼もまた海賊のようだ。彼女は一度頷くと、再び視線を上へ戻した。


「……そうね。初めて来たの。この時代の幕開けになった人が終わりを告げたこの場所に。」


そう告げて、胸に潮風を吸い込んだ時、覚えのある香りが微かに鼻をくすぐるのに気づいた。
懐かしい…煙の匂い。一瞬、白昼夢かと思うほど嗅ぎ慣れた匂いに目眩を覚える。

無意識に力が入る身体。
すぐにエメラルドの瞳は、見紛う事のない白銀の髪と体躯を視界に捉えた。


「……何年ぶりかに姿を見たと思ったら…火拳とここで何してやがる?」
「………スモーカー少佐。」
「もう大佐だ、バカやろう。」


すっと、冷えた瞳を細めるとヒスイはスモーカーの間合いに入らぬよう距離を測る。
運のない事にどうやらここは彼の管轄だったようだ。
外していたフードを目深に被り、ヒスイは一歩後ずさる。その動きに合わせるように、スモーカーは七尺十手に手をかけた。


「……逃がすと思うか?この俺が。
海賊と一緒ならこれまでのように見て見ぬフリはしてやれねぇぜ。」
「生憎、私は犯罪者じゃない。この人も別に知り合いじゃないし。行かせてもらいます。」


スモーカーの周囲の煙が、急速にこちらに向かってくる。
攻撃に彼女が構えると、そこで、それまで動きを見せなかった青年が後ろから簡単にヒスイを抱えあげた。


「…わ!?ち、ちょっと」
「捕まってな。」
「火拳…!!貴様、」


肩に担がれ、ヒスイは高速で変わる景色に目を瞬かせる。繰り出される鮮やかな炎の攻撃に、ヒスイはようやく彼が誰であるかを悟った。


「嘘。貴方――火拳のエース…なの、」


その呟きに、エースは屈託のない笑みを浮かべる。


「悪ぃな。なんか面倒事になっちまったみたいで。事情は知らねェが変わりにちゃんと逃がしてやるからよ。」


炎に似合う明るい笑顔。
その顔に、ヒスイもふわりと表情を緩める。
どうせ彼といなくても自分もお尋ね者には変わらない。


「……気にしないで。慣れてます。」


苦笑まじりに答えると、ヒスイはエースの服を握りしめる。
暖かな彼の肩越しに、遠ざかるスモーカーの顔を彼女は少し切なげな瞳で静かに見つめた。

(そういえばまだ名前聞いてないな?どっかで見た気もするんだが、)
(…)
────────
2010 12 19

[ 99/110 ]

[*prev] [next#]