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涙空に晴れの魔法を


※not固定ヒロイン。幼なじみ。
誕生日ネタ。


「…ぁーあ、今日は雨、かぁ。」


事務所の窓から外を眺める。
もし晴れていたら、今夜は幼なじみの彼を誘って久しぶりに飲みにでも行こうかと思っていた。
今日は七夕で、明日はパウリーの誕生日。
もう盛大に祝う歳でもないが、それでも何かしてあげたい気持ちはある。けれどこうも盛大に降られると、送り届ける事も考えて別日の方が良いかと彼女は切り出すのを悩んでいた。

その日はカリファに届ける書類を黙々と作成し、1日が過ぎる。気づけば、定時を少し回っており、明日からの作業を確認してヒスイは帰宅準備を始めた。
傘を一つ持って、昇降口の先にある扉へ彼女は向かう。

少し古びた扉を押し開ければ大きくなる雨音。
開けた新しい視界には、予想通りの雨空と、そして予想外の見慣れたパウリーの姿があった。


「…あ、え?」


偶然、ではないのだろう。
驚くヒスイと対照的に彼は冷静に、彼女を認識すると壁に預けていた背をゆっくりと浮かせた。


「もう帰るのか?」


普段と変わらないトーンだが、付き合いの長さからあまり機嫌がよくないのが分かってしまう。
どうしよう…、内心、戸惑ったがヒスイは気付かない振りをして彼に笑顔を向けた。


「うん、結構雨強いし…たまには早めにね。」


―――半分、嘘。
残業続きの仕事を珍しく早めに切り上げたのは、本当はパウリーの事をギリギリまで迷っていたからだ。誘おうか、誘うまいか。
結局後者を取ったのだが、会社を出る前に出くわしてしまいまた決心が揺らぎ始めた。

そうかよ、とパウリーが小さく呟く声が聞こえる。
と、不意に、手にしていた傘が彼の手によって奪われた。


「え?ちょ……っ」
「俺よ、」


少しだけ慌てた彼女の言葉を遮り、彼はヒスイを見据える。音を立てて開く、水色のビニール。大きめの花柄がプリントされたそれはお世辞にもパウリーに合わないものだったが彼は構わず、それをさし彼女を隣へ引き寄せた。


「傘ねェんだ。だからうちまで送ってくれよ。」
「……」


その言葉に顔を上げれば、赤く染まった彼の顔が視界に入る。たったそれだけの変化。しかしその変化にヒスイの心は、暖かく、とても嬉しい気持ちになった。
崩れる緊張。肩の触れ合う距離で、二人はのんびり歩き出す。雨は変わらず、降り続いたが改めて視界に映る空は先程よりも少し明るく見えた。


「ねぇ、パウリー。」
「あ?」
「何か買って行こうよ。今日は晩御飯作ってあげる。」


向かう先は、少し遠回りをして市のある水路。
ヒスイが笑って彼を見上げると、パウリーも不器用に笑い返した。

(おめでとうは家に着いたら言おうかな。)
―――――――――
2011 07 11

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