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その恋、前途多難07


※エニエスロビー編辺り。


―――夢をみた。
大好きだったあのひととじゃれる夢。
二人、シーツにくるまって笑いあって、その他愛ない時間は最高に幸せな刻だった。


「……気分はどうじゃ?」


澱んだ暗い意識の中、声が割って入り、金色の髪の彼が笑う幻影がふつりと消える。
薄く目を開け現実に戻ればそこは水の都でない、政府直轄の孤島エニエス・ロビー。どうやら痛め付けられて気を失っていたようだ。
世界政府に拘束された今、もはや彼女の先の未来は無いに等しい。手首に嵌った海楼石の手枷に長い指が触れ、続いてその手はヒスイの頬にそっと触れた。
力任せに役人に殴られた箇所が痛くて彼女は思わず顔を歪める。頭の中に響く、ここの長官だと吹いていた男の声。カクは彼女のその反応に手を引っ込めると、一度だけ深い溜め息をついた。


「忠告したじゃろ。早く街を離れろと。」
「…そうだね。」
「――死にたかったのか?それとも……そんなにパウリーが良かったか?」


その言葉に、自嘲めいた笑みがこぼれた。
あれから数年、ウォーターセブンに留まった事に後悔はない。
例えこのまま死ぬ事になっても、彼と過ごしたあの街での時間は彼女にとって変えられない宝だった。
初めて、焦がれた。あのひとを愛してしまった。


「…カク、」
「ん?」
「カクは優しいから…サイファーポールには向かないね。」


ヒスイは申し訳なさそうに微笑むと、腰掛けていた椅子から立ち上がる。
無感情に切り変わったその視線の先をカクが辿ると、その先には自分と同じ黒に身を包んだルッチが戸口に立っていた。


「…さようなら。気にかけてくれてありがとう。」


躊躇いなくヒスイの足はルッチの方へ歩いていく。
どうしようもない。カクは顔を歪めるが、口を開けない。自分が政府の人間である限り、連れていかれる彼女を引き止める事は出来ない。
カクは拳を握る。

だから―――内心、本音は羨ましかった。
司法の塔の外から聴こえた麦藁の声。
そして、彼女の名を呼ぶ聞き慣れた声の主が。

"ヒスイ!!"

あやつ…生きておったのか。
自分ではもう溶かせないヒスイの心にその声だけがまっすぐに届く。

パウリー。
パウリー、………助けて………!

ヒスイの瞳から溢れる涙。
再び息を吹き替えした感情を彼は黙って見つめる。
崩れた体を支えてやる事は出来ない。
堰をきったその涙すら自らが拭えない事を、カクは酷く歯がゆく思いながら追いかけてきた敵を司法の塔から見下ろした。

(…お前の視界に映らない場所で、あの男は始末してやらんとの。)

せめて、思い出にまで彼の死に様が残らぬように。
―――――――――
2011 03 28

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