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Kiss me Good bye04


黒い彼を目だけで追う。
いつも皆の輪の中心で陽気に笑う人造人間。
グリードさん。見ているだけで、どきどきと胸が騒ぐ。
好き。それは何て単純で、…何て面倒な感情なんだろう。理解している。彼は皆のリーダーで、返しきれない恩のある遠いひと。いずれにせよ伝える気などは皆無だが、やはり女性との絡みを見るのは複雑だった。


「こんな隅で何してるんです?」
「ッ!………・キ…キン…ブリー……」
「珍しいですね、貴方、夜はあまり此処にはいないのに。」


唐突に掛けられた声に、ヒカルは肩をびくりと竦める。デビルズネストの隅で座っている彼女を捉える金色の瞳。気紛れに嘲う意地悪い視線から彼女は気まずそうに顔を逸らした。


「そんなにお好きなら言ってしまえばよろしいのに。」


血の気が引いた。グリードを見つめていた事がばれて、違うと言いたいのに混乱して言葉が何も出てこない。一人、ワイングラスを傾けていたヒカルの隣に彼は無遠慮に腰掛ける。肩が触れそうに近い距離。ヒカルがそれに離れようと腰を浮かしかけると、力強い掌が細い肩を押え付けた。


「っ、…なにを…」
「そんなに邪険にしなくても良いでしょう。愚痴くらい聞いて差し上げますよ。」
「…。そ、そんな事頼んだ覚えありません。」
「ほう。今日はそんな可愛くない口をきくなら…あの人にこれからバラします。」
「っ…!」


全身の毛が逆立つような感覚。彼女がそれに言葉を詰まらせ、勢いで再び顔を見上げると、キンブリーは漸くちゃんとこちらを見ましたね、なんて実に楽しげに目を細めた。


「相変わらず分かりやすい方ですね。」
「…。」
「いや、しかし意外だなあ。あの人のどこがそんなに良いんです?」
「…大きなお世話です。」


ふくれッ面で、ヒカルは酒を飲み干し、ついには瓶ごと煽り始める。頬がだんだんと赤みを帯び、目が据わってくる彼女に対し、キンブリーが笑みを深めるのにヒカルは全く気付かない。

(うう…。気持ちわるい……)

やがて、視界がぐらぐらと歪み始めたところで、ヒカルはようやく酒のビンから手を離した。


「…気は済みましたか?」
「……済む、わけない…です。」


すっかり衰えた覇気で、それでも何とか言葉を返す。どうしてこの男なんだろう。どうしてあの人でなく、この男が気付いたのか。
ヒカルは深い溜め息をつくと、そのままソファーの上に突っ伏した。


「…………キンブリー……」
「何ですか?」

「この際貴方でいいんで……もうちょっとだけ、居て…くれ……」


消え入るような声で囁かれた呟き。
しかし、彼の耳にはハッキリとその声が響いた。
キンブリーは何も言わない。
何も言わず、彼は席を立たなかった。
緩んだ涙腺から零れる涙が、白い頬を音なく濡らす。

騒がしい店内。
それとは対照的な二人の空間。

(――――馬鹿な女だ…。)

やがて聞こえ始めた微かな寝息に、キンブリーはポツリと漏らし、彼女の上にジャケットを放った。
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2006.08.16
一部改定。

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