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Kiss me Good bye01(旧アニメキンブリー寄り)


※元ホムンクルス側の人間。
恋傾向は一方通行の兆しあり。
ハッピーエンドではないのでご了承下さい。


自分が何をしているかなど深く考えた事はなかった。
いや、考える事をやめたのだ。
幼い頃、IQが高いとか何とかで軍に半ば攫われるよう連れられて、来る日も来る日も四方を分厚い壁に囲われた部屋で監視役の大人と山のように積まれた本を相手に過ごした。
初めの内は再三逃げ出そうとしたが、失敗する度、体に傷が増えたので止めた。
従っていれば危害は加えられない。
生きる為にはこうするしかない。

そんな諦めがいつの間にか普通になって、気がつけば血糊の取れない白衣をヒカルは纏っていた。


「あーあ。すました顔して……最近のお前、つまらなくなったなあ。」


仮眠の為、皮の剥げたソファに横になっていると、ふと、上から声が降ってきた。
ゆっくり瞳を開くと、白を基調にされた室内に不釣り合いな黒が目に入る。
視線が合うと、鋭い紫の瞳孔が禍々しい笑みを浮かべ…まるで獲物に舌舐めずりするよう近付いていた。


「動物相手に実験するのも飽きちゃったか?」
「………。」

「安心しなよ。今度の玩具は人間だ。お前もまた楽しめるぜ?」


するりと冷たい手が頬を撫でて耳障りな高笑いが鼓膜を震わせる。
胸が苦しくて泣きそうになったが、ぐっと堪えた。
涙など流そうものなら相手の思うツボだ。
彼は高揚し嬉々とした表情で、また暴力を振るうに違いない。


「………出て行って。」


感情を殺した声でそう言うと、彼は嘘のようにそれまでの笑みを引っ込めた。頬に触れている指先に力が篭る。


「…いい事教えてやろうか?ヒカル。」


冷た過ぎる目つきとは裏腹に、その声はとても穏やかだ。ちりちりと鈍い痛みが顔を走る。
離れて行く指先を見遣ると、その爪は薄く赤に染まっていた。


「実はさ…。お前が居なくても…もう研究は進められる段階まで来てるんだよね。
まあ居た方が良いには越した事ないんだけど……」
「……エンヴィー…」

「だから…そうやって、あんまり可愛くない態度ばっか取るなら………」


“お前も実験に使って、殺しちゃうよ?”

ぺろり、と爪についた血を一舐めして全く笑っていない暗い瞳で彼は微笑んだ。
ぺたぺたと遠ざかっていく足音に比例して心臓の鼓動が増し、身体ががくがくと震え出す。
押し殺す嗚咽が喉を塞ぎ、深い咳と涙が一気に溢れた。
もう、限界だった。
何をするのも嫌だった。

今まで必死にしがみついてきた『生』さえよく分からなくなって……ただ“此所”から解放されたかった。
そうして再度反抗した彼女は被験体の側へ突き落とされた。

***

「此所に残って実験動物をやってくか、俺と出て地獄で遊ぶか、選べ。」


だから……あの日。
その人が目の前に現れたのは、奇跡だった。生きる事を諦めキメラに成り果てても生きろと手を差し出してくれたひと。
それを弱々しく、けれど夢中で掴んだのを振り解く事なく握り返してくれた事が…

ヒカルは何よりたまらなく嬉しく、そしてただ愛しく思った。

(私はその、裏切りのホムンクルスに恋をした)
―――――――――――
鋼錬過去log

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