×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



ヒヤシンス(ルツ寄りココ私兵)

※フロイド実子。キャスパー、ココの義母妹。


仕事を切り上げて呼び出されたヘリポートで待っていたのは金髪の青年。髪を押さえながら近付くと、風から庇うよう彼が立った。


「初めまして!あんたがヒカル、さんでいいんだよな?」
「……あなたは?」
「おっと、失礼。俺はルツ。あんたを連れてくるよう言われてるMS.ココ・ヘクマティアルの私兵だ。」


伸ばされた大きな手。戸惑いながらもヒカルが握り返すと、ルツは明るく笑みをこぼした。
屈託のない笑顔に少し安心する。誰にも心を赦せない環境で、唯一寛げるといえば自室だけ。しかし彼の素直な感情は、まだ普通の生活を送っていた懐かしい学生時代を思い出させるものだった。
ヒカルは守護者を持たなかった。用がある時以外、建屋から出なかったし、出る時は常に相手が誰かしら護衛を連れていた。
命を狙われる恐怖を身を持って体験した事は幸いまだない。が、武器商人の端くれに足をつけてから他人に対しての警戒心は消せず、気がつけば誰にも心を赦せなくなってしまっていた。


「笑えばもっと可愛いのにな、あんた。」
「え…」


乗せられたヘリの中で、ルツが呟いた言葉に顔をあげる。操縦席の脇に貼られた一枚の写真。それはまだ学校に通っていた頃のもので、友人と笑っているヒカルの姿が納められていた。
静かに彼女は外へ目を背ける。返ってこない日々にすがる気はない。会いに行って危険を振り撒く気もない。与えられた日常がただ静かに過ぎる事だけを彼女は望んでいた。

案内されたのは南の島の孤島だった。
ヘリから降り立つと白銀の長い髪が少し湿った風に梳かされている。義兄同様この義姉も隙のない美貌と気配の持ち主で、ヒカルは少し気後れしながら彼女にゆっくり近づいた。
白い、その存在自体が浮き世めいた人。


「急に呼び立ててすまなかった、ヒカル。本来なら私が出向くところだが、たまには息抜きにどうかと思ってな。相変わらず、働き詰めなのだろう?」
「いえ。お気遣いありがとうございます…ココ様。」
「ココで構わないよ。ヒカル。」


艶やかな黒髪を撫でながら、ココは笑う。頷きながらも彼女は気軽に返事は出来なかった。
ヘクマティアル兄姉はどちらも紳士的な義理の兄姉だが、本心は読めない。優しくしてくれるのには感謝している。しかし、彼女は理解している。彼らとは歩んできた世界が違うのだ。
砂浜を歩いていると、ルツがヒカルを傍らへ呼ぶ。近づいていくと知らない顔も何人か居て、茶髪の青年が興味津々彼女の顔を覗き込んできた。


「へぇ、このお嬢さんが噂の。黒髪に青い目とはまたレアだな。」
「ヒカル、怖がる事ないぜ。こいつはアール。ヨナに、トージョに


突然、大勢に囲まれて居たたまれなくなった彼女は紹介してくれているルツの背後にそろそろと隠れる。
赤い顔で俯いてしまったヒカルにルツは若干戸惑うが、頼られていると思うと嬉しくなった。
日本人は童顔でそれだけで可愛いのに、彼女は加えて愛らしい。体を捻って手をまわしかけたその時。


「扱いには気をつけたまえよ、ルツ?ヒカルはキャスパー兄さんのお気に入りだ。」
「っ…ま、まじ」


ココの静かな指摘に肩にまわしかけた手がそのまま固まる。ルツがまごついている間にヨナが既に彼女に話しかけておりヒカルは彼の話に気取られていた。


「ココと同じ色の目…。綺麗だね。」
「あ、ありがとう…」
「そうだ、ヨナ。レディの良いところはすぐに誉める。良いアプローチだぞ。」


くすり、ほんの少しヒカルは笑う。蜘蛛の糸に掛かったよう捉われたのはルツの視線。ヨナの手に引かれて遠ざかる彼女を彼はぼんやり見つめていた。
可愛らしい二人の並ぶ姿。しかし、ちくりとした小さな嫉妬がルツの心臓を痛めつけた。可笑しそうにココに見つめられて、ルツはバツが悪そうに頭をかく。


「案ずるな。私も鬼じゃない。帰りはまたヒカルを任せよう。」
「…そんなんじゃないスよ。(まだ。)」


(しかしなんつーか、皮肉なもんだな。)
(何がだ、レーム?)
(黒髪の天使は相変わらずだからよ。その気になればココに劣らず悪魔らしい容姿と才能があるってのに。)

少女は今日も世界の片隅で静かに息吹く。
――――――――――
2013 09 19

[ 2/114 ]

[*prev] [next#]