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屋上で剣の翼を畳む(進撃*リヴァイ)


※兵長と同期主。医療班。


髪をまとめる。厚底の眼鏡をかけて、ヒカルは黙って白衣を羽織った。もうすぐ調査団が”壁外”から帰ってくる。壮絶な医者ごっこが始まる時間だ。
世界がまだ平和だった頃、彼女は普通の学生で友達との日常を楽しんでいた。同時に密かな憧れを、決して交流する機会のない青年に抱いていた。当時からアンダーグラウンドで有名だったリヴァイ。遠くから見る冷ややかな目を彼女は綺麗だと思っていた。
周りから敬遠されていたゴロツキが、数年後には人類の英雄になろうとは。
全く世界は予測不能な事ばかりだ。


「…さて、今回は何人帰ってくるのかしら。」


誰しもが終わりに向かう絶望の中で、変わらないのは彼の存在だけのような気がした。

息もつく間がない嵐のような時間が過ぎて、ヒカルは屋上で一人タバコに火を点けた。血濡れの白衣は洗うのも面倒で医療用のゴミ箱に投げ入れてきた。空に溶ける紫煙を眺めていると、漸く現実に戻ってきた気がする。
脱け殻のように壁に寄りかかり、半分意識を飛ばしていたヒカルは近づいてきた気配に気付けなかった。


「その眼鏡。不細工だからやめろっつったろ。」
「…」


開口一番。帰って早々、それはない。しかし彼女は特に動きを見せず視線だけ視界に入ってきた彼にやった。声を出すのも面倒だった。が、牛乳瓶の底に似た眼鏡は素直に外して膝に置いた。
隣に並ぶ男に劣らぬ秀麗な顔立ち。感情の起伏が乏しい処もどこか似ていて、二人は周囲から同じ部類に括られていた。
彼女としては人類最強の兵長様と同類など笑えるほど場違いに思うのだが。


「…リヴァイ、煙草は身体を内側から壊すわよ。」
「てめェも同じモン咥えてんだろうが。」
「私はやりたいように生きて、死んでやるからいいの。貴方より多少なりとも若いしね。」


ぁ、ドーナツうまく出来た。そんな事を思っていると真上からまともな拳骨を喰らった。
いってー、舌噛んだらどうしてくれるんだ、この野郎。そもそも一介の婦女子に躊躇いなく手を上げるこの暴君には呆れを通り越していっそ清々しい。汚い言葉を呑み込んでリヴァイを見上げると、意外にも儚い顔をしていて怒りが霧散した。
さらりとした黒髪が肩に降りてくる。黙って彼女は膝を折った彼の背に手をまわした。
……今日はなにか事があったらしい。血を滴らせるこの世界がこれ以上、彼を哀しい化け物に変えてしまわないようヒカルは瞳を閉じて夕焼けに祈った。


「…リヴァイ。まだまだ一緒に悪足掻きしてよ?貴方を看取るなんて、私はごめん。」
「誰に口きいてやがる。当たり前だ。」


愛なんて綺麗な感情には程遠いが。

(平和ボケした顔で笑っていた頃のお前が、酷く懐かしく思った。)
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2013 11 09

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