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宝石箱の鍵は刺さったまま5


視界が拓けたのは突然だった。
深く暗い霧が晴れるようにぼんやりと世界が瞳に広がり、周りに聳える本棚を暫く見つめた。カウンターに置かれた鏡の存在に気付き黙って自分を覗き込む。映り込んだのは碧眼。話に聴いていた赤い目でない瞳に、ヒカルは僅かに首を傾げた。

(赤い目じゃ…ない?どうして?)

言い知れぬ恐怖が感覚的に肌を這う。クロロのいつも囁く言葉が呪いのように頭に蘇った。

『綺麗だ…、お前のその瞳は本当に美しい。』

彼がいつも誉めてくれていた赤い眼。理由は分からないがその眼が無くなってしまった。帰ってきたらどうなってしまうだろうか。このままここに居られる保証はどこにもない。生きて、いられるかも。
僅かに血の匂いを纏って帰る日もあるクロロ。気付かない振りをしていたが、知っていた。
知らない振りをしておく方が楽だったからヒカルは何も聞かなかった。
眼が見えるようになって喜ばしい筈なのに、こんな恐ろしい思いをする羽目になるとは。彼女は黙って立ち尽くしていたが、やがて与えられた部屋で服を着替える。目深なフード付のコートを羽織り、外出の準備を整えた。
旅団のメンバーに何と説明すれば良いか分からない。けれどもう此処には居られない。逸る心臓を押さえて彼女は図書館のドアをゆっくりと開けた。


「あれ?ヒカル、どこか行くの?」


廃墟の中を歩いていると、シズクの声が耳に入った。初めて見る、眼鏡をかけた少し幼い彼女の顔。他にも知らない顔が三人いたが、気配でヒソカとシャルナーク、コルトピだと分かった。
他のメンバーは出ているようで、この場に姿は見当たらなかった。


「…ええ。クロロがすぐ傍まで帰ってきているから出ておいでって、」
「ふぅん。そうなんだ。」
「一人で平気?俺が待ち合わせ場所まで送ろうか?」


シャルナークの申し出にヒカルはびくりと肩を揺らした。いつもと変わりなく振る舞っているつもりだが、何を察知されるか分からない。シャルナークは気をきかせてくれる事が多い分彼女は今その気遣いが不安だった。


「大丈夫。すぐ近くだから、念を使って周りを確認していけば一人で歩いていける。マスターには顔を隠して来るよう言われたからこのまま行ってきます。」
「そう。…うん、その方がいいよ。気を付けて行きなよ?」
「はい。」


歩き出す背後にヒソカの視線を感じたが、ヒカルは気付かない振りをして彼らから離れて行った。綺麗だ、綺麗だと謂われていたが外へ出る時はいつも夜で、人気のない場所だった。
赤い目をクロロは心の底では不気味だと思っていたのではないか。だから仲間以外誰にも会わせず、あの静寂に満ちた空間に閉じ込めて。


「私、どこへ行けばいいんだろう…」


赤ん坊のように大声で泣きたくなった。もう、帰る場所も行く所もない。
ヒカルは大通りの雑踏に紛れて歩き続けながら身を寄せる場所を考えあぐねていた。携帯が鳴る。肩を揺らせて恐る恐る取り出すと、それは先程別れたばかりのヒソカからのメールで彼女は黙って文面に目を通した。

―――せっかく出掛けるなら、クロロと会う前にクラピカって人間を探してみたら?◆
少なからず以前の君と関わりがあるカモ。

クラピカ。初めて聞く名前にヒカルは目を瞬かせた。同時に先程ついた嘘が彼にも気付かれていない事にほっとする。
フードを外し、彼女は大きく外の空気を吸い込んだ。誰も見向きもせず、すれ違い、傍を通り過ぎていく。注目されていない事実にまた息をついて彼女は足早に借宿から反対の方角へ足を向けた。
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2014 04 15

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