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宝石箱の鍵は刺さったまま4


その日、ヒカルは何となくクロロの図書館から外へ出た。明るさから感じて昼間。いつも誰かしらいる廃墟は綺麗にもぬけの殻で、彼女は小さく息をついた。
少し誰かに話し相手になってもらいたかったのに。彼女は周囲に気を付けながら明るさの強い場所をゆっくり探した。やがて大きな窓ガラスの前に来ると、ヒカルはそっと腰を降ろす。暖かい。割れた隙間から風が舞い込み、彼女は一人微笑んだ。
夢にみる野花の匂いを運ぶ風とは程遠いが、それでも外を感じられる。遠く聞こえる鳥の囀りや、車の音。何故だろうか…悲しくもないのに、涙が溢れそうになった。
そのままうとうとヒカルはうたた寝してしまう。小さな体は縁の隅で丸くなってしまえば建物の影でほとんど見えなくなった。

夜食にと、食糧を盗りに行った数時間の間だった。ウボォーギンとシャルナーク、フィンクスが帰ってきてみれば、団長の念の空間に気配がない。普段、全員が仮宿を空ける事はほとんどない為、彼女がいない事を悟ると3人は少々慌てた。


「どうする?団長に連絡するか?」
「まあ待ちなよ。別に逃げたって決まったわけじゃない。…第一、監禁してるわけでもないだろ。」
「まあな。けど今までなかった事だ。」


荷物を置いて辺りを探すが気配はない。盲目の彼女が一人でそう遠くには行けない筈だが…ヒカルには彼女自身気付いていない念能力がある。触れたものを解読する力はまだ不確かでどこまで団長が把握しているかも団員達には分からない。ただこれまでが大人しい性格だったから、思いきった行動に出るとは考えにくかった。

――記憶が戻れば、或いは分からないが。


「ヒカル!ヒカル、何処だ!?」


ウボォーギンは大声を出しながら、廃墟の中を散策し始めた。シャルナークとフィンクスも一度目を合わせた後、それに続く。捜し始めてから十分程、ウボォーギンは比較的早く彼女を見つけた。日が少し傾いて見えにくくなっていたが、ヒカルは確かにそこにいた。


「――ったく。焦らせるぜ。」


片腕に眠っている彼女の身体を転がして、ウボォーギンは歩き出す。柔らかい感触が無意識に擦り寄ってくるのは可愛らしく彼は思わず僅に固まった。
これまであまり間近でよく見たことはなかったがヒカルは綺麗な顔立ちをしていた。団長の恋人…というわけではない、コレクション。団員でもない彼女は本来縁のないごく普通の女性。騒がしさに目を擦りながらヒカルは子供のように顔を上げた。


「う、ん…あれ?ウボォー…?」
「お、おお…。お、お前、何こんな隅っこに勝手に出て来てんだよ。」
「ごめんなさい…皆、いなかったから、ちょっと日向ぼっこを…」
「ったく。びっくりしたじゃねーか。」


首を傾げる彼女にこっちの話だとウボォーギンは返す。何の思惑もない彼女を疑ってしまい、内心バツが悪かった。
そうだ。彼女が逃げる筈がない。逃げた処で、コレクションを外れない限り団長から逃げ切れる筈はないのだから。
ふにゃりと笑うヒカルを下ろしてやると、彼女は慣れた足取りでフィンクス達のいる方へ歩いて行った。


「お帰りなさい。…いい匂いしますね。」
「おぅ。何かいるなら、好きなもんやるぜ。」
「ふふ、ありがとう。」


彼女が腰を降ろした隣に、ウボォーギンもどかりと座る。…このまま、記憶のないまま団長の所有物であればいい。そうすれば傍で無条件に守ってやれるし、傷つける事もない。
涙の痕には気付かない振りをして、ウボォーギンはヒカルの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
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2014 04 02

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