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麗しのアウトサイダー(アーバイン)


晴れ渡った空から砂漠へ眩しい日差しが降り注ぐ。
帝国領を越えて、二日。今回は装備の納品と取り付けに彼女は共和国を訪れていた。一般人からヒカルに整備依頼が入るのは数ある仕事の中でも稀な事だった。
彼女は企業を立ち上げたり何処かに属する気はなかったので、大体は元軍属の繋がりか、正規軍のサポートで呼ばれる事が多かった。待ち合わせとして送られてきた座標を確認する。少し久しく見る共和国の街並みを眺めながら彼女はのんびりと目を細めた。
郊外に見えてきた、帝国製の黒いゾイド。ライトニングサイクスだ。以前なら共和国内では異質に見えたであろうその機体が、馴染んでいる事が内心嬉しかった。


「こんにちは、アーバイン。お元気そうですね。」
「よう。時間ぴったりだな。」


コクピットから降りると、ライトニングサイクスの足元で銃の手入れをしていた男が顔をあげて笑った。
眼帯の彼とは終戦後に知り合い、以来、こうしてたまに連絡が来る。お得意様、とでも言うのだろうか。関係性を少し考えたが、明確な答えは出そうになかった。


「こちらが今回、Dr.Dから買い上げてきたパーツです。たまには帝国側にも来られればご自身でも目利き出来るのに。ライトニングサイクスの互換性がある装備も増えてきてるんですよ。」
「だろうな。だがまあ、今はあんたに任せるので間に合ってる。死ぬような戦闘も無いし、金もあんたを通じての方が安上がりだろうからな。」


信頼されているのか、ただ値切りたいだけなのかはよく分からない。悪い人ではないのだろうが。困惑が顔に出ていたのか、アーバインは苦笑いして肩を竦めた。


「もしかして、嫌な仕事をさせてるか?」
「いいえ。ただ、貴方は愛機をあまり他人に任せたがるタイプではない気がしていたので。私がでしゃばり過ぎるのもどうかと思っただけです。」
「……なるほど。あんたの考えはそこで行き詰まってる訳なんだな。」


アーバインは小さく息をついて頭をかいた。
ヒカルが首を傾げると、頭の上に彼の手がそっと降りてくる。思っていたより随分、柔らかな触れ方だった。


「あんたにコイツの事を触らせるってのは、腕を見込んでるのも勿論だが、口説いてるってのも含んでる。仕事の口実を作れば優秀な整備士さんがこうして俺のとこに来てくれるからな。」
「……アーバインてそういう人でした?」
「?どういう意味だ?」
「うーん。軟派というか、なんというか…」
「そうか?伝わってねえからストレートに伝えただけだろ。あんたは他人の心情を察するのが上手い方かと思ってたが、案外、疎いんだな。」


恋愛経験なんて皆無だ。若い頃はずっと軍属で、多感な思春期は戦争中。身よりの無い孤児に本気で言い寄る人間などいなかった。
いや、大人になってからは一人いたな、とヒカルは冷静に振り返る。彼もまた身寄りのない身で、断り続けても気にせず好きだと言っていたから単純に自分が恋愛体質でなかっただけかもしれないと彼女は思った。


「確かに…。鈍いとは言われたことは何度かありますね。」
「だろうな。ま、いいさ。男にこなれた女より、あんたみたいな方が独占しがいがある。」
「…誉められてますか?それ。」
「ああ。それに俺は組織に属するのがどうにも苦手なんだが、あんたからも同じようなものを感じてな。まあ、細かい事は気にするな。十分、いい女だよ。」


なあ、ライトニングサイクス。アーバインがそう投げると、声を上げたのはサイクスではなく、彼女のゾイド、グレードサーベルの方だった。
僅かに威嚇するよう唸る姿に、ヒカルは目を瞬かせる。アーバインはそれを見て嬉しそうに吹き出すと、悪戯に笑い屈んで彼女の頬に唇を寄せた。


「ち、ちょっと!な、アーバイン…!」
「なに、挨拶がまだだったからな。どうだ?今、相手が居ないなら試しに俺と付き合ってみるか?」
「からかわないで下さいよ、もう!お断りします。」
「残念。今日は振られたな。ンじゃ行くか。基地に先導する。」


軽やかに身を翻し、彼はライトニングサイクスのコクピットへ上がった。頬に手を当てる。
こちらを見下ろすアーバインの瞳に少しドキっとして、彼女は彼から視線を外した。ヒカルは振り回されている自分が急に子供っぽい気がしてグレートサーベルを見上げて苦笑する。


「…過剰な社交辞令はちょっと困るね。」


帝国では出会わなかった、自由で、風のような人。
ライトニングサイクスが駆け出す姿はアーバインの背中そのものの様だった。

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2020.06.06

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