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大人の茶会にて1(シュバルツ兄弟)


※若干、カール寄りです。


トーマから連絡が来たのは半年振りの事だった。
久しぶりに家族で休暇を過ごすから、家に遊びに来ないかと。メールの内容にヒカルは黙って眉をひそめた。

バンやフィーネと会うなら分かるが、シュバルツ家にはこれまでの彼との付き合いの中でも数回しか足を運んだことはない。
主には養父が亡くなった時。まだ未成年だった彼女の世話を焼いてくれたのがトーマのご両親だった。家柄が家柄なので、自立して以来気軽に遊びに行ったりはしていないが。

(なんでまた急に?変なの……)

トーマなら彼女が良い返事をしないのは分かっていそうなことかと思った。暫く悩んで画面を閉じる。記載されていた日時はまだまだ先であるし、いい理由を考えてから断ろう。
ヒカルはそう思うと、次の仕事内容の確認に戻った。

***

数日を経て、ヒカルは帝国軍の偏狭基地を訪れていた。退役して以来、会わなかった懐かしい顔ぶれもいて、依頼任務の合間は楽しい一時を過ごした。
整備をする時に、ふと、見覚えのあるセイバータイガーに目が留まった。質の良いガトリング砲を背中につけた赤と黒のカラーリング。一瞬、思考が停止した。

(……いや。まさかこんな小さな基地に、)


「久しいな、ヒカル。」


掛けられた声に思わず肩が跳ねた。振り返ると、トーマより少し明るい金色の髪が風に靡く。穏やかに細められた切れ長の翠の眼に、彼女は慌てて一礼した。


「ご無沙汰しております!…あの、失礼ですが階級の方は……」
「今は少将だ。君はもう軍人ではないのだから、私に敬称をつける必要はないぞ。」
「まさか!私にそんな事が出来るとお思いですか、シュバルツ少将。またお会い出来て光栄です。」


胸に手を当て頭を下げる。彼と対等に話せる目下の人間など、共和国のバン=フライハイトくらいだろう。相変わらずオーラのある人物だと思いながら、ヒカルは努めてにこやかに笑みを返した。


「部隊が見えませんが…今日はお一人で視察ですか?」
「ああ、そんな所だ。近くの街で確認しておきたい所用もあってね。」
「そうですか。私は後二日ほど此方で作業させていただいた後、失礼致します。終わったら一度、共和国の方へ出国致します。オコーネル少佐からも先日、ご依頼をいただきまして。」
「……ほう。」


僅かに声のトーンが変わるが、彼女が気づくことはなかった。久しぶりにバンやフィーネにも会えるかもしれない。
それに、彼方に移住したリーゼにも。嬉しそうに微笑むヒカルにシュバルツは若干、真顔になった。


「そうだ、来月は我が家にもお越しいただけるんだったな。」
「え、」
「トーマから連絡が行っているだろう?君の話が出て母も久しぶりに顔が見たいと言い出してね。私も楽しみにしているよ。」


笑顔が思わず引き攣ってしまった気がした。トーマにはまだ返事をしていない。しかし、シュバルツ少将に直接言われてしまっては断るハードルが段違いに上がってしまった。
まさか、彼から圧が掛かるとは。ヒカルは曖昧に頷いて、後でトーマに直ぐに連絡しなくてはと内心、焦りながら頬をかいた。


ーーートーマ、返事が遅くなってごめんなさい。
あの、来月のご実家の件なんだけど。

ーーーああ、心配ない。その件は兄さんが既に手配している。
その身一つで来れば問題ないぞ。


え、と固まる。トーマまでもが何だか強引になっている。
そうじゃなくて…、文字を入れ掛けた指先が止まった。
頭に浮かんだのは先程のシュバルツ少将の隙のない笑顔。駄目だ。今更、行かないなんて。彼女は頭を抱えるが、最早、断る選択肢は選べないかと一人唸った。

***

トーマは返事の返らない画面を黙って眺めていた。
実は少し前に兄から連絡が来て、彼女に念押ししてある事をトーマは先に聞かされていた。


「あの…兄さん。俺はヒカルが家に来ること自体は歓迎ですが、あれは周りに色々と気を遣うやつで。その…、大丈夫でしょうか。」
「なに、彼女ももう良い歳だ。付き合いくらい弁えているさ。格式ある式典に誘っているわけでもない。お前たちは少々、大袈裟に捉えすぎだよ。」
「…はあ、」
「私もたまにはお前達の顔をゆっくりみたいんだ。彼女はおろか、お前とももう一年近く家には帰っていないだろう。任務任務ですぐに月日が過ぎてしまうからな。」


兄の穏やかな声にトーマは曖昧に返事をして、通信を切った。カールはよく似た反応をする二人に苦笑を漏らす。
それは愛しくもあり、極度の奥手さが煩わしくもあった。

(…全く。いつまで経ってもミラーリングのような二人だな。)

最も、私も彼らの事ばかりは言えぬ身だが、と。
ーーーーーーーー
2020.01.18

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