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銀糸の悪魔は残滓に嗤う(プロイツェン)

※ifプロイツェンが夢主に接触していたら。
養父(オリキャラ)が若干、絡むことになります。


「ーーああ、そうだ。僕が乗る機体の整備を今後一任したい人間がいる。データは送っておくから軍でのそいつの処遇は貴方に任せるよ。」


定時連絡に次いでレイブンから告げられた言葉はプロイツェンの指を僅かに動かせた。入隊させてから今まで他の帝国兵士になど見向きもしなかった少年兵が一体どういう風の吹き回しか。
通信で送られてきた所属部隊名と名前を側で控えていたハーディンに調べておくよう告げ、プロイツェンは執務室を退室した。

ガイロス帝国を、ゆくゆくは世界をいずれ我が物とする。
その為に動かせる有能な駒は一つでも多い方が良い。レイブンとシャドーは反乱軍を潰す為の重要な存在だった。
手塩を掛けた鷹がつまらない小石に躓いて、計画の妨げになるような事態になってはならない。ここまで育て自由にさせてきたのは何の為か。レイブンは独りゾイドの破壊を尽くせばそれで良いのだとプロイツェンは信じて疑わなかった。

後日、ハーディンが用意した書面上の人物は平凡な顔をした女で、まだ少女の域を出たばかりの年頃だった。てっきり男とばかり思っていたプロイツェンは僅かに驚く。性欲対象として彼女を欲しているのかと一瞬考えたが、あまりに打算的でその考えはすぐに消えた。

(戦争孤児から帝国軍へ入隊……珍しくもない生い立ちだな。)

しかし、一つだけプロイツェンの興味を引く文面があった。彼女の元養父。元帝国軍人であったその人物の名に彼は目を留めた。


「…会ってみるか。」
「…は、」
「一応、この目で見ておこう。故レイン中佐の養い子とやらを、な。」

***

唐突に謁見の間に呼び出され、ヒカルは混乱と緊張のまま入室の挨拶をし頭を垂れた。画面越しか、遠目にしか見たことのなかった帝国軍元帥が目の前にいる現実。決して友好的ではなかったハーディンの態度からしても良い話では無いはずだ。
彼女は内心、震えながらプロイツェンからの言葉を待った。


「そう畏まることはない。今日君を呼んだ理由は、概ね個人的な事だ。」
「は、」
「レイブンからの要望で専属整備の件も本人から聞いてはいるが、それはいい。君の腕は実技にて追々確かめさせてもらう。それより……レインが引き取ったという子供がどんなものかと興味が沸いてな。」


養父の名が出て、ヒカルは肩が僅かに跳ねた。まさかこの場で元帥の口から養父の名が出てくるとは夢にも思わず。彼女が恐る恐る顔を上げると、紅い目と視線がぶつかった。
宝石のような苛烈な赤。彼の持つ艷やかな銀色の髪と対照的で、一際際立って見えた。容姿もそうだが、その眼にカリスマ性のある人物だと率直に感じた。


「…元帥閣下は養父の事をご存知なのですか。」
「彼とは年齢が同じでな。かつて私の部下だった事もあった。優秀な男だったが、…ある怪我で軍を退役したのだ。」
「そう、なんですか。過去の事はあまり話さない方でしたので。養父には行き倒れかけていた所を拾って頂き、感謝しています。…早くに事故で亡くし、残念に思っております。」
「……そうだな。」


探るような視線から言葉通りの気持ちでない事は感じ取れた。自分が知っている養父の性格からすると強硬派思考のプロイツェン元帥と上手く連携出来ていたとは思えない。ヒカルは敢えて何の感情も乗せず静かに彼を見つめた。元帥が養父を悼むかどうかは彼の自由だ。帰ってきてくれるわけでもない。


「彼は機械工学に特異的に強かった。君も優秀な成績で士官学校を出たと聞いている。期待しているよ。レイブンと上手くやれるなら、相応の報酬は準備しよう。」
「ありがとうございます。出来得る限り、帝国の為、尽力致します。」
「宜しい。人事は追って連絡しよう。下がって良い。」


上官の言葉のままに彼女は一礼して、静かに退室した。
プロイツェンは一連の動きを具に観察した後、背もたれに体を預け目を閉じる。当たり前だが、レインとは違った。顔も、性格も。失望に似た感覚がじわりと胸に広がった。


「……ハーディン准将、彼女の目を見たか。」
「は。あの者の目でありますか?」
「澄ました顔をしていたが、いまだ絶望を拭えず他人を信じられぬ目だ。レイブンが彼女を望んだ理由が少し見えたな。」


愉悦がプロイツェンの口元に広がる。瞳の奥に隠れている魔物が、牙を見せて嗤った。
レイン…、黙って私の命令を聞いて動いていたなら今も生きていただろうに。見ろ。お前が気まぐれに拾った命もこうして私の手の内だ。結局、全ては私の為に在るのだ。

(プロイツェン、俺の命は俺のものだ。どう生きて死ぬかは俺が決める。)

思い出した彼の姿に、急に可笑しさが引いた。
眩しい光に満ちた目と快活な声が脳裏に蘇る。プロイツェンは怒りに似た激情を殺すと、ハーディンにも下がるよう命じた。かつての記憶は廃れつつも、思いとは反した鮮やかさを確かに残していた。


「…忌々しい男だ。」


プロイツェンが吐き捨てた言葉は、彼に固執している自身にも向けられたものだった。

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2022.08.31

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