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君の手を僕に重ねて1(シュバルツ兄弟)


※第41話ネタバレ。


別動隊への応援を終えて常駐している基地へ戻る途中。規模の大きな砂嵐に遮られヒカルは一番近い帝国領内の軍事施設に数日間身を寄せる事になった。
かつて帝国で使用されていた大量破壊兵器が残る要塞。足を踏み入れるのは何となく躊躇われたが、今は致し方なく。事情を入電し訪れてみれば基地を任されているツバキ大尉は温厚そうな人物で彼女は少なからず安堵した。
機械工学を専門とする彼女は、滞在している間ジャミングスノーの廃棄処分に僅かばかり助力する事になり基地内も見る機会を得た。廃棄された武器に甦る戦争時の記憶。口には出さなかったが、ここに残された兵器をみると亡きプロイツェン元帥の暗い意思がまだ燻っているかのようだった。

(…もう…、戦争は起こらないよね。だって、)

ガーディアンフォースに任命された友人を彼女は思う。人付き合いが下手だが、弱い者には紳士的で、軍人としての責任と誇りは人一倍持っているトーマ。もう二月はゆうに会っていないが、彼は怪我などしていないだろうか。
天候が砂嵐から雨に変わっていくのを感じながら、ヒカルは出立の準備を整えていた。

――その夜、施設内から突如、警報音が鳴り響いた。
宿舎を跳ね起き、彼女は素早く軍服を羽織る。廊下に出ると、辺りは非常灯に切り替わっており、薄暗い中、外を蠢く見慣れないゾイドの影を見た。
青く巨大なダブルソーダが開かれたゲートから入ってくる。何事かと走っていく兵士達を横目に、雷に光る青い機体に彼女は震えた。

戦闘になっているわけではないのに、どうやって基地内まで入り込んだのか。警報音が鳴り響く中、銃撃戦や対ゾイド戦にならない事に違和感を感じつつ彼女は基地内の格納庫へ遅れて急いだ。

ざわり。肌をさす殺気。
本能的に走っていた足を停める。
息を殺して迂回し、裏口から格納庫を伺うと、先に着いていた兵士達が全員床に伏していた。
じっと目を凝らすが血は出ていない。銃声はしなかったから死んではいない筈だが…。ヒカルが黙って様子を伺っているとやがて青い服の青年とオーガノイドが正面ゲートから入ってくる。青年が軽く指をならすと、それまで倒れていた兵士達がゆっくりした動きで立ち上がった。笑い転げる彼の異様な様に、ヒカルは事態の異常さと深刻さを改めて認識する。

あの青年は一体、誰。目的は。
この基地に戦闘用のゾイドは配備されていない。
ともすれば――狙いは大量破壊兵器か。

(……早く外部に知らせないと。)

彼女は人の気配が消えるまで、雨に打たれながら小さくなって機会を待った。

第一装甲師団がその通信を傍受したのは偶然だった。緊急事態を知らせ途切れたその声は聞いた事のある人物のもので。シュバルツはアイアンコングで要塞に向かいながら久しく会わぬ弟の友人の事を考えていた。
思い違いであって欲しいと思ったが、彼女の所属する部隊に問い合わせてみれば一昨年の悪天候により帰還が遅れると連絡が入っていた。
予定ルートの傍には今回、発信のあった基地が含まれている。

(…無事ならばそれで良いが。)

何度も通信を試みたが、悲鳴に近い叫びを最後に応答はない。
音信不通と化した要塞の遠い影を彼は厳しい表情で睨みつけた。


「ははっ……まさかネズミが入れた通信であの有名なシュバルツ大佐が釣れるとは。なかなか面白い事になってきたじゃないか。なあ、」
「…」

「それはそうと、スペキュラー。まだ見付けられないのか。たかが女一人。さっさと捕まえて僕の前に引きずり出せ。兵隊にもよく探させろよ。」


青年は自らが従えるオーガノイドに命じ、画面に映し出された資料を見つめる。声紋で個人を特定出来てはいるのに、ダブルソーダから探索用のマイクロゾイドを放っても基地内で彼女を見付けることは叶わなかった。

気に食わない。カラクリが読めない。
青年は不満そうに顔を歪めたが、彼女の資料を見ながらやがて思い付いたようその唇を笑みに歪ませた。


「……たかが整備士風情が。ふふ、精々逃げ回るがいいさ。どうせ時間の問題だ。」


多少は頭がまわるようだが、
なら、お前が見捨てられない人質を用意して自分から跪かせてやろうじゃないか。

青年の低い微笑みをシュバルツもヒカルも知る由はなく。彼女は量産型のゾイドの中で助けが来るのを信じていた。
――――――――――――
「悪魔の迷宮」回。またの名をシュバルツ兄弟観賞回。笑。
2016 05 02

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