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02命の灯火


ヒーリンの療養所はとても静かな処でヒスイリアは数日間身を寄せる事になった。自分が行くべき場所は既に考えていたが、少し落ち着いて休んでいく事を提案され彼女は甘える事にした。
案内された部屋でツォンと二人になった時、彼女は彼から一枚のメモを受け取った。


「…スラムは被害が少ない場所もあると聞く。建物がまだ残っていれば、一度ここを訪れるといい。」
「……ここには、何が?」
「エアリスが……彼女が生前、好んで手を入れていた場所だ。」


プレート下層の街は瓦礫に埋もれ、目も当てられない場所もあればまだしっかりと骨組みが残っている地域もある。
翌日、ヒスイリアはレノと共に五番街のスラムを歩いた。家財道具らしきものを運び出す人間、それに混じって盗人らしき者が横行するのも見かけられた。
秩序を失った街はその機能を失っていく。ミッドガルから直に普通の人間は消えてしまうかもしれない。


「花売りのお姉ちゃんもここで待ってたのかね。」
「え…」
「ツォンさんが前に言ってた。エアリスはザックス=フェアとこの街で会ってたってな。何度俺達が此処へ来てもエアリスは逃げなかった。あの頃はただ気の強いお姉ちゃんとしか思ってなかったが。」
「!」
「ほんと、世間は気味が悪いくらい狭いな、と。」


天井が抜け落ちた教会の前で、レノは静かに足を止めた。ヒスイリアは一度彼に目をやった後、ゆっくり屋内へ進んで行く。手入れする者を失い、本来荒廃していてもいいはずのその場所はまるで子供の秘密基地のような淡い緑を忍ばせていた。

(……水の匂いがする…)

百合の花に混ざって、透明な香りが鼻を掠める。それは彼女がいまだ大切にしている思いが残っているようで、ヒスイリアは切ない気持ちが込み上げた。
ひゅ、と背後から風が吹く。小さな足音に振り返ると、そこには男の子が立っていた。ふらり、ふらりと覚束ない足取り。レノが声を掛ける前に少年はその場に崩れ落ちた。


「、ちょっと…嘘でしょ。」
「大丈夫だ、生きてるぞ、と。」


近付くとその手には携帯電話が握られている。まだ通話は途切れていないようで、女性の小さな呼び掛けが絶えずスピーカーから漏れていた。
気を失った巻き毛の少年の手からヒスイリアは携帯をそっと取り上げる。
耳を近付けると、その声は聞いた事のある声で彼女は黙って眉を顰めた。


『ねえ、ねえ、君?大丈夫なの?今、何処にいるの?』
「…………ティファ…?」
『えっ!?』


受話器から聞こえた声にティファは耳を疑った。
落ち着いたトーン。心に自然と馴染むその声は、大空洞で生き別れた友人のものだ。状況が呑み込めず唇が震える。ティファは確かめるようにその名を告げた。


『…ヒスイリア?あなた…、なの?』
「ええ。」
『、生きてたの!?今、何処にいるの!さっきの男の子は?クラウドは一緒なの!?』
「……落ち着いて、ティファ。一つずつ…答えるから。」


ヒスイリアが携帯で話している間、レノは少年の具合を確認していた。微かな痙攣、衰弱の具合から見て恐らくは避難の遅れたミッドガルの住民だろう。
生きているだけ運は良いが、放っておけば死んでしまうのは時間の問題だった。
彼女が会話を一頻り終えて少年の傍にしゃがみこむ。


「…どうする気だ、と。」
「電話の相手、ティファだった。ティファがこの子連れてきて欲しいって言ってる。ちなみにこれ、クラウドの携帯だって。近くにいるみたいね。」
「……本当に、お前は人間磁石みたいだぞ、と。」


レノの言葉に苦笑すると、ヒスイリアは少年の額に手を置いた。熱い身体。浅い呼吸は苦しそうで、今にも引き付けでも起こしてしまいそうだった。彼女が少年を抱き上げた瞬間、入り口の開き扉が鈍い音をたてる。

揺れる、金色の髪。
ヒスイリアは目が合うと黙って彼をじっと見つめた。驚きに固まる青い瞳に彼女は申し訳なさそうに名を呟く。


「…クラウド…」


弾かれたように、クラウドは彼女の元へ駆け出した。伸ばされた手は途中で止まり、触れるのを躊躇うように震えていた。最後に別れた瞬間が蘇る。ヒスイリアは少年を片腕に抱え直し躊躇したクラウドの手を自ら取った。狼狽する彼に、彼女は少し罰が悪そうに微笑みかける。繋いだ手は遠慮がちに握り返され、やがて強い力が込められた。


「…、俺は今、幻を見ているのか?」
「いいえ、…私、帰ってきたの。遅くなってしまったけど生きて…また世界に帰って来られたのよ。」


変わらないヒスイリアに、クラウドは漸く息をついて表情を緩める。俺も一応、いるんだぞ、と。レノが不満そうに呟くが、クラウドは構わず手を離さなかった。

おかえり。

小さく、噛み締めるよう呟いて。
―――――――――――――
2014 10 30

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