07



僕はそうだね、と応えて、紅を畳に降ろす。どうやら機嫌は直ったらしく、部屋の隅で丸くなって目を閉じる黒猫に苦笑し、彼女の目元にそっと触れた。

「……目、赤い。そろそろ寝る?」

「えっ、あ、はい。そうですね」

時刻はそろそろ日付を跨ぐ。彼女の精神も安定したようだし、頃合いだろうと僕は彼女を抱き締めなおした。

「…っ、あ、あの、倫太郎さん」

「ん?」

「私、部屋に戻りますから……」

「今日は此処で寝たら? あ、もし魘されてたらちゃんと起こしてあげるから、心配しないで」

「そ…そういうことじゃなくて…」

もごもご。言いたいことは大方分かるが、敢えて無視をさせてもらう。

片方の布団に彼女を下ろし、毛布を掛けると彼女の眸が不安そうに揺らいだ。

「やっぱり、すぐには眠れない? 子守唄歌ってあげようか」

「い、いえ。大丈夫です」

あら残念。



それからはふたりで他愛ない話をして、丁度日付がひとつ進んだ頃に彼女の寝息が時計の針の音に混ざった。

安らかに閉じられた眸を覚まさないようにそっと息をこぼして、その瞼に唇を寄せる。

「………依千子」

上体を横たわる彼女の方へ傾けて、彼女を呼ぶ。健気な少女。穢れを知らない、少女。

「まだ、忘れてるの? …早く思い出して、僕のこと。…………君が、僕を殺したこと」


早く思い出して、と。
眠る彼女の耳許で囁いて、僕は彼女の首筋に軽く口づけた。







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