04
「依千子ちゃん? どうしたの?」
湯呑みを置いて、彼女の傍に寄る。問い掛けるも、堅く目を閉じ自身を抱くように縮こまる彼女は微かに頭(かぶり)を振るだけだ。
どうやら混乱しているようだが、何が彼女を此処まで動揺させて居るのだろう、と彼女の背中を擦ってやりながら彼女が見ていたで有ろう方向に視線を向ける。と、外からカリカリと何かが爪を立てる音がした。
「依千子ちゃん、大丈夫。只の猫だよ」
「…ね、こ……?」
「そう。夜になると時々僕の部屋に来るんだ。ごめん、びっくりさせちゃったね」
「い、え……すみません、私こそ」
力なく言葉を紡ぐ彼女はパニック状態からは脱したようだったが、依然としてその顔は蝋のように蒼白い。
そこで僕はふと気付いた。
「……、…もしかして、何か視ちゃった?」
「っ」
直ぐ近くで彼女が息を呑む。図星だ。
彼女には時々不可思議なモノが視えるらしい。決まった時刻や状況などはなく、不定期に訪れると云うその能力が、先天的なものなのか後天的なものなのか本人も判っていないと云うことだが、その力のせいで幼い頃から侮蔑の視線に晒されたことも一度や二度ではなかったらしい。
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