とある男の探偵事情
「其れでは叔父様、行ってきますの」
「あぁ、行ってらっしゃい」
良く晴れた朝。
諸事情により目下家出中の姪を玄関で送り出す。背筋を伸ばしキビキビと通学路を歩いて行く赤いランドセル姿が遠くなる。…あ、どうやら一緒に登校すると昨晩言っていた『サチコちゃん』と無事合流出来たらしい。良かった良かった。
「嵯峨谷(さがや)さん、愛娘ウォッチングも大概にしないと拘置所連れてかれますよ」
「……手厳しいな、染野(そめの)君。愛娘じゃなくて姪だよ。それと、せめて事情聴取はしてほしいな、僕としては」
「…………はッ」
振り返って助手の方を向いたら、これ以上無いくらいの嘲笑を向けられた。……時々思うが、彼は僕が雇い主だと云うことを認識しているのだろうか。それを踏まえてこの扱いだったらそれはそれでえげつない。恐るべし、染野篤(あつし)(19)。
「あと一時間で今日の依頼人が来るんですからね」
「あぁ、もうそんな時間か。染野君、先に行って事務所の鍵を開けておいてくれないかな」
「良いですけど……何かまだ用事でも?」
「うん、ちょっとね。個人的に依頼を抱えているものだから」
「…そうですか」
分かりました、と彼は鍵を受け取る。
「染野君」
「はい?」
「何だか小学生の姪に『叔父様』と呼ばれると妙に如何わしい気がしないかい」
「……やっぱアンタロリコンだろ」
下に行くついでにそこの公衆電話で警察呼んで来ますね、とさらりと公言した彼は此方の制止も聞かずに颯爽と階段を降りていった。
……うん。あんまり警察の人と関わりたく無いんだけどなぁ、探偵としては。
とある男の探偵事情
/fin
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