Jun 06 20:54


※BL注意!







彼奴はチェシャ猫よりも狡猾で。
彼奴は大鴉よりも貪欲で。

彼奴を喩えるならなんだろうとぼんやりベッドの上で天井を眺めていると、ふと思い付く。


「……あぁ…『悪魔』か」

胸中で呟いたつもりが、実際声に出ていたようで、「え?」と振り返る長身の男が金髪を揺らして此方に寄ってくる。……そんな大きな声で言ったつもりはないが、相変わらず耳だけは良いらしい。


「何?」

「……、別に」

「えー、気になる。言ってよ」


……聞こえていた癖によく言う。
今度こそは胸の内だけでそう毒づいて、無言で傍らの毛布を肩まで引き上げる。室内は最適な温度に保たれている為寒くは無いが、ゆるゆると眠気がすぐそこまで来ていたからだ。

「…寝る」

そう短く相手に告げて、ごろりと寝返りをうつ。名残惜しそうな相手の顔が一瞬見えたが、知らぬふりをして目を閉じる。……相手と同じ性を受けた此の躯はそう何回も受け入れるようにつくられていない。

珍しく何も言わない相手の気配がふと動いて、次の瞬間にはあたたかい何かが髪に触れる感覚。……十中八九コイツの手だろうが、其れが妙にやさしくて、うっすらと目を開ける。チラ、と相手に視線を遣ると、幸か不幸か(多分後者だ)相手の目とかち合った。

その奥に揺れる、翳り。子動物の様な甘さを見せておきながら、その熱だけは猛獣顔負けだろう。

……安眠は、もう少し先か。
ひっそりと嘆息して、体の向きを変えた。

「…おいで」

くい、と金髪を引き寄せて、囁く。耳朶に飾られたシルバーピアスが、唇に触れてひやりとした感覚を残す。

だがそれも、すぐに相手の口唇の熱さに消えてしまって、遠ざかっていく眠気にもうひとつ溜め息を吐いた。


熱い唇に燻った欲が身体中を侵していくのを客観的に感じながら、ごく近くにある金色に手を伸ばす。……天使の容貌をした悪魔。そんな矛盾した喩えがコイツには似合いだと小さく笑うと、相手は不思議そうにひとつ瞬いた。



***
6月6日は悪魔の日と言うことで、突発小咄。






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