May 06 21:43



双子は忌むべきもの。そんな迷信が未だに息づく家に、産まれた。
憎悪を隠そうともしない眼と、言葉。それらが積もって心身を病んだ母親が死んだと聞かされたのは、多分二桁に手が届くか否かの歳の頃の、まだ肌寒い春の日だった。


……ふと思う。
あの日どちらかが死んだなら、何か変わっていただろうか。





「祀(まつり)」
「…、……ん」


聞き慣れた声と気配に、目を開ける。其処には同じく慣れた片割れの顔が在った。

「……生徒会、終わったの、未虎(みとら)」

「あぁ。悪かったな、待たせて」

「別に。助っ人頼まれてたから、丁度良かった」

「バレー部か?」

「んん。今日は、バスケ部」


…放課後片割れの生徒会の仕事が終わるまでの時間限定で、時々部活動の助っ人を請け負うようになった。時間も潰せるし気分転換にもなるから、我ながら良いアイデアだと思う。

そうか、と微笑んで首元できっちりと締めていた制服のネクタイを緩める片割れの兄──未虎は、ふと何かに気付いたように此方の目を覗き込んでくる。


「何」
「泣いたのか?」
「……泣いて、ないけど。何で」
「目のまわりが赤い」
「…。……あぁ…さっきまで、寝てたから」


言ってから、理由になってないなと内心嗤う。彼が来るまで眠っていたのは事実だが、それだけではそんな風にならないのは明白だ。

「…夢、みてた」
「夢?」
「オレと未虎が、棄てられた日の、夢」
「……そうか」

呟いて、未虎は目を伏せる。そしてそれを開くと、手を伸ばして此方の頭に置いた。

そのままわしゃわしゃと動物と接するように撫でるその手に目を細めていると、未虎は曖昧な笑みを浮かべて続ける。

「怖かったな」
「……ん。でも、未虎が起こしてくれたから」

昔から、そうだ。悪夢を視た時は、必ず彼が泥沼の様な其処から引っぱり出してくれる。

「もう、大丈夫。帰ろ」
「あぁ」

貴重品しか入っていない薄い鞄を手に、席を立つ。


……まだ夢の名残で微かに震える手は、彼には見えていなかっただろうか。


(あれが、夢じゃなかったら)

ふと、思う。
あの日、何かが変わっていたら、どちらが死んでいたのだろう。


(きっと、オレだ)


そんな風に確信めいたことを思うと、手の震えが刹那止まった気がした。




***
ふと浮かんだ双子の話。
斎条(さいじょう)祀くん(弟)と未虎くん(兄)。名字出てきませんでしたけどね←





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