Aug 10 13:23

『モノクロームストロベリィ』の第8話小噺。




「…行ってしまいましたね」

 あっという間に遠くなる兄の車をぼんやりと眺めていた星羅(せいら)は、従者の言葉に振り返る。彼──八重樫港(やえがしみなと)はいつも通り定位置に立っていた。

「…………少々、心苦しいです」

「…え?」

 唐突な従者の告白に、星羅はパチリと大きな黒目を瞬かせる。

「伊万里(いまり)様とも武人(たけひと)様とも…また暫くお会い出来ないでしょう? ……幾ら貴女様のお傍に居ても、そのお心の虚を埋める術を、私は持ちません」

 その長身を屈めて、目線を合わせる港がそっと手を取って苦笑する。……彼の笑顔はとても綺麗で好きだ。けれど、こんな風に切なげでつらそうなそれを見ていられなくて、星羅はキュッと彼の手を握り返した。

「星羅様?」

「……寂しく、ないよ。港が居てくれるから」

 姉や兄となかなか会えなくても、自分には、彼が居てくれるから。

「だからずっと、傍にいて」

 頬が熱くなるのを感じながらそう言うと、数秒驚いたように固まっていた彼だったが、やがて「はい」と柔らかく微笑んだ。




***
星羅ちゃんとその従者・港さんの小噺。

歳の差主従Yeah!!なテンションで書きました。





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