全然掴めない

「丹星先輩」

新人の小鳥遊くんとお昼を食べる。
育成の日にちも早一週間が経っていて、彼も職場に少しずつ慣れて来ているようだ。

「どうしたの?」

サンドイッチをムシャムシャと食べながら彼は一点先を見つめながら何かを話そうとしているようで。
ゴクリ、と動いた喉が咀嚼をしたことを匂わせる。
彼は口を開いてこちらを向いた。

「城ヶ崎伊犂來さんは俺のことを恨んでいますか?」
「え」

唐突なその質問に驚きを隠せないでいると、まあそんなもんですよね、と乾いた笑いを見せる。
突然なんなんだろうと頭が混乱しかけるが、そうだ、最近の彼女は確かにおかしかった。

この育成が始まってから彼女は朝必要最低限の伝達を済ませると、今までのように秘書らしく隣を歩くことをしなくなった。
何かに取り憑かれるかのようにデスクへ向かい、何かを、ずっと調べ続けているのだ。

しかしそれが彼と何の関係があるのかは分からないし、掠ってすらいないのかもしれない。
だが、彼女は彼と対面したあの日から、いやあの時あの場所あの何秒かの内で何かを知ってしまったのかもしれない。
それが一体何なのか検討もつかない。
それに口を出さないのが彼女の為でもあるとも思う。
気になるのは山々だが、目の前の怪訝な顔をしたままでサンドイッチを持ったままの彼にそれを伝えたのだった。

(気になるなら聞いてみたらいいんじゃないかな?)

何かをずっと考えたまま、しばらく口を開かなかった先輩にそう言われてから向かったのは資料室。
彼女はここによく居ると教えてもらい、半信半疑のままここまで来た。

確信はない。
が、自分の家がどんなところか、どんな被害を出して来たのか、その位は理解している。
そしてその場が嫌だったから逃げ出して来たのだ。
でもこんな秘密裏の組織にまで被害が通っているとは思わなかった。

自分の父親の顔を思い出して、無意識に拳を作っていた。
薄く滲んだ汗に苦笑いを零す、なんて愚かで馬鹿な人間なんだろう。
自分の力のなさと臆病さに溜息をつきたくなるが、そんなことをしている場合ではなかったのだ、と思い出す。

(いくか)
そして右手を伸ばしてドアノブを回した。

「伊犂來」

久しぶりに呼ばれた名前に驚き、後ろを振り向く。

「丹星さん」

お疲れ様です、と頭を下げるとそのまま言葉を返される。
その顔は少し薄く笑っているように見えた。

(あ、何か怒ってる)
大抵この顔の時は何か不審に思って、機嫌があまり良くない時にしている顔。
勘付かれたかと、笑顔で対応する。

「大丈夫、何も聞かないよ」

しかし想定外の言葉に、顔を強張らせるとクスッと笑われてしまった。

「でも一つだけ教えて欲しいんだけどね」

そしてその次の言葉にまた驚かされるのであった。

(背中の傷、どこでつけて来たの?)

全然分からない、この人が何考えてるのか、を。

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