籠の鳥だった故の知識不足


「絶対あの、小鳥遊組の…」

いつからこんな独り言の多い女になってしまったのだろう。でも、それでも。恐らくあれは、あの小鳥遊という男は。ずっと探していたところの男だと、今は興奮?それからこれは、

「憎しみ、か」

あれはいつだったか。まだ覚えているということは、それだけ大きな出来事だったのだ、まあそれも当たり前か。目の前で両親を殺されたのだから。忘れもしない、雨上がりの虹のかかった皮肉なくらいいい天気の日。グレーのアスファルトに二人の赤が広がる景色。絶景?絶対見たくなかった、信じられない光景のことを言うのならそうだろう。

「母さん」
「い、りこ」
「…父さん」
「逃げなさい」

黒い服を着た、大きな男。銃を持って、あっちはナイフを持って、その隣は赤くなったナイフを持っている。ああ、母さんはアレに刺されたのか。どうしてか冴えた頭が冷静に状況を判断する。これから母さんは死んでしまうのだろう。逃げろとは言われても、父さん、私はこんな母さんも、父さんも置いてどこにも逃げられないよ。

「いり、ごめんね…ああ、こんなに早いなんて思ってもいなかった…」

途切れ途切れに吐息を漏らしながら、母さんは虚空を見つめる。訳のわからない言葉と紡ぎながら、早いって何?聞きたいことはたくさんあるのに。握った手がどんどん冷たくなっていくんだから、聞ける訳なんてなかったんだ。

「母さんね、もっとお話ししないといけないことがたくさんあったんだけど、今はもう間に合わないから、…そうね、やっぱりお父さんの言う通り、お手紙書いておいて、本当に…よかったな、って、ね、…しっかり私たちの言ったこと守って、いり、こは、大きくなってね…?」

ああ、これで母さんと話すのは最後なんだ、馬鹿みたいに可愛くない子供。ありがとうありがとう、母さん、またね。って、確かに最後は笑っていたその人は、私に封筒を渡して冷たくなった。
その間も、父さんは黒い服の人と一生懸命話をしていた。単語しか聞き取れなくて、それで覚えているのが、小鳥遊組。小鳥遊、たかなし。だから彼の名前、白須さんに書類を渡された時か。頭が警報を鳴らして、これが待っていた時間だと、気づけばその日の夜だった。

「それだけ考え込んでたってことかあ…」

あの後、父さんは私を抱きしめて、そして今度は銃で心臓だろう、そこを撃ち抜かれた。死んだ。父さんが私を抱きしめた時の温かさと、少し冷たい涙が、震えた指先が、二人との最後の思い出だなんて。こんなこと、他の子にはさせたくない、今はそう思える。そのくらい私も大人になったんだ。その間も、小鳥遊組を探し続けたけど、手がかりなし?いや、今は、ある。

「しかし家出って…いつの時代の手段よ」

心中じゃないだけまだ最近か、頭が疲れているのか、よくわからないことを口走っている。それにしても、未だに疑問なのは両親と小鳥遊組の接点。それから、何故殺されたのか。二人の言葉が頭の中でループして、そして思い出す。

(母さんからの手紙)

アレは芦さんと出会った時に、確か。あの人が預かるからって、どうしてだったんだろう。きっと、アレに何か、手がかりが。
「父さんは、お前を守ることが、一番大切な仕事なんだよ。お前がもしも悲しくなることがあっても、多分その時は父さんはお前を守ってやれない。その時は父さんと母さんの名前を、周りの人に伝えてご覧。きっと助けてくれる人がいるはずだから…」

あの父さんの言葉に、私は確かに助けられたけど、二人は私以外の人たちからしても、そんなに大きな存在だったんだろうか。

(城ヶ崎、ねえ…)



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