渋い顔なんてしてる暇はないよ


彼女にそれを突然押し付けられたのは、約束の二分前。突然の出来事に確かに驚きながらも、何となく彼女のこの行動に慣れてしまっているのも確かだ。

「また何か頼んできたんじゃない?」
「いえ、ほら時間もありませんから行きましょう」

こういった時は大抵誤魔化すように早く早くと急かしてくる。でも確かに時間もないんだよなあ。そういえばいつかの時もそうだったかな、なんて柄にもなく昔のことを思い出してみたりした。
会議室のドアを開けると、黒髪の大人しそうな男の子がいた。名前は確か、そう、小鳥遊和佳。小鳥遊、どこかで聞いたことがあるようなないような。そういえば何となく彼女が嫌そうな顔をしている…?気のせいかもしれないが彼女とは幼い頃からの付き合いだ。多少のことなら分かる。

「どうも」
「初めまして小鳥遊君、私は城ヶ崎です」
「僕は丹星幸多です、暗殺班の代表です」
「はあ」

何とも言えないような返答を繰り返す小鳥遊に、彼女も呆れているというか、これは後で愚痴を聞かされる羽目になりそうだ。それでいてまだ渋い顔をしているのは何がいけないのか。後で聞いてみようと考えていると、今度は彼が口を開いた。

「芦さんに連れられてきました、小鳥遊和佳です。家出してきたんで、死ぬ気で来たんですけど、どこに配属されるんですか」

軽々しく死ぬ、とか言うもんじゃないなとか、そんなことはどうでもいいんだ。またあの人は家出少年?今回は拉致とでも言われそうなことを簡単にやってのけた。全く勝手で困った人だ。これをまた人に、何の説明も無しにやらせるときた。それでも恨む気にさせられないところが、あの人の魅力とでもいうのだろうか。

「あなたは操作班に配属されます。多く外に出られる班ですね」
「いや、それじゃあ困るんだけど…」

家出がバレたら死んだも同然なんだけど…と下を向く。でも、そう言ってから体制をこちらになおす。そしてドラマでよく見るような、そう、極道物のような…両膝をついて両手は太ももの上。そしてその手を前へずらして、土下座、とはまた違うものなのだろう。頭を深々と下げた。

「これからよろしくお願いします」

これが彼との出会いだった。驚く自分を他所に、彼女がまだ渋い顔をし続けていることにも気づかないまま、呑気によろしくねなんて。

(やっぱりあの時の、)

「それじゃあまずは回っていこうか」



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