それは漂白しきれない

白い坂道が好きだった。
近所にある細く緩やかなあの坂が。
光が反射して白く見える、あの坂が。

「赤」

赤い坂道が嫌いだ。
二人のそれで染まった白かったあの坂が。
どうしてこうなったんだろう。

そして意識は覚醒する。

(悪い夢を見た。)

いつか見た嫌いな光景を久しぶりに夢で見た。確かこれは五つの頃だったかな、そう思いながら軽く伸びをする。今日も仕事だ、支度をしなければ。まだ重い体を無理矢理起こすと、傍らでまだ響く前だったアラームが騒がしいメロディを吐き出した。

「おはよう」

細く長く伸びた髪を一つに結うと、自分も年を取ったんだと実感させられる。今は居ないあの二人の年齢はとうの昔に超えてしまった訳で。
すれ違う部下に挨拶をすると前から一番心配な奴がフラフラと現れた。そうか、また昨日…今朝も夜勤で仕事してたのか。あまり自分に鞭を振るいすぎるなと何度も何度も言っているのに、彼はそれをやめないのだ。

(壊れたら戻らないのに馬鹿馬鹿しいと言うか…)

おはようございますと軽く会釈をした彼は、眠そうに重たいであろう瞼を擦っている。家には戻ってるのか?だとかもういっそ寮を作ってしまおうか?とか、色々出てくるんだけれども、それを飲み込む。
ああ何て愚かな。自分の為に色々と無茶をしていたこの男の有り難みと、その代償に気がつけないとは。今思い返せば一番の誤ちになるだろう。両親に、顔向けなんて今更出来ないのに。

「丹星、これでも飲むんだな」
「芦さんこれはブラックコーヒーですね」

僕もそろそろ限界ですよと苦笑いする彼に、冗談だよと彼の好きな銘柄のミルクティーを差し出す。今度は嬉しそうに微笑むんだから、まだまだ子供だと25の男にそう思うのだからそれほど大切な存在なのだ。

「丹星さん」

そして今度はパタパタと小走りで駆け寄ってきた女性部下。本当に微笑ましいと何を悠長に思っているのか、こんな自分にも仕事はあるのだと彼女を見て思い出された。

「これから次の仕事の作戦会議があります」

お疲れだと思いますがと申し訳無さそうに告げる彼女は、彼の秘書である。彼女も今は笑顔を見せてくれて、本当に嬉しい。それがずっと続けばと思うものの、それは長く続かないことはまだ知らない。
そして消えて行く二人の背中が何故か悲しくて人知れず手を伸ばす。が途中でやめた。彼らには彼らの未来がある、それを横槍で邪魔するのは二人の親としてどうか。例え血は繋がらずとも大切な存在を持てるということを、一番に彼らに伝えたかったのは他ならない自分である。だから、この時消えてしまいそうな二人に、少しだけ助けて欲しかったのは言わなかったのだ。

(もう長くない、と。)



[ 2/10 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -