「ご主人!待ってくださいて!」

いつの間にこんなに自由気ままな人になってしまったのか。
炎天下の元大粒の汗を身体から流しながらその背中を追いかける。
黄色の明るい髪がキラキラ光って綺麗で、手を伸ばしたが届かない。

「もう!」

周りに人がいないのを確認してから、元の姿へ戻ると一気に身体が軽くなる。
それでもそれが何だか久しぶりで、それでいて懐かしい気持ちになった。
そして四つ足で駆けるとすぐにその背中に追いつくことが出来た。

「うわあ!何だよ九重!」

何かあるときは一言言えって言っているのに。
そう言うご主人に何度も掛けましたと言えば嘘だろと顔を顰める。

「で、どうした」
「母様から通信がありました」
「む」

さんさんと降り注ぐ夏の光を避けるように、林の中へ入り木の根に腰を掛ける。
ご主人は僕を膝の上に乗せて背中を撫でる。

母様は僕の母様のこと。
母様も僕と同じ九尾の一家で、御子柴家と共に生きてきた。
その力は歴代の誰よりも引けを取らないと言われ、その子の僕は他からの野次を総受けしたものである。
結局のところ、自分にないものを持つ腹いせ、はたまた嫉妬。
汚い感情を力のある母様にではなく、その子へと向けたのだった。

(そこにご主人が生まれたんですよね)

九尾と人間の年の取り方は勿論違う。
そこの均衡を保つ為に御子柴は九尾の血を身体に取り入れ、無くなった分を自ら九尾へ還すのだ。
それをすることで御子柴は力を得、九尾は人の力を得ることになる。

残念ながらその母様から生まれた子でも、僕は誰よりも力が弱かった。
そのせいで要するに虐めを受ける対象になっていたが、僕は母様が大好きだったし、分かってくれる人もいた。
まだ血を引いていない身体でも、母様、八重の血依である阿須賀様は優しかったから、何も悲しくはなかったのだ。

「懐かしいことを考えているな、九重」

母様からの文を読み終えたであろうご主人が、耳の裏を優しく撫でる。
血依同士一心同体である為、互いのそれは手に取るように分かると言う。
僕はまだ力が弱いからそれは分からないけど、血依だろうがそうじゃなかろうがこの人は何でも分かってしまうのだろう。

「八重は変わらず元気らしいぞ 母さんも大分身体が楽になったと言っているみたいだし 父さんも代理の党首の割りには奮起してるってさ あーあ やっぱりこうして出てきて良かった」

ご主人のお母様の阿須賀様は、年々強くなる九尾の血に悩まされているそう。
党首を勤めていた阿須賀様の代わりに、祭祀であったお父様の加寿和様が今は党首代理に。

ご主人は家出と言い張るが、今僕らは修行の身にある。
僕の小さな力の向上と、ご主人の目標探しの旅。

その途中でMARK-Gの存在を知り、今はその情報部に身を置いている。
九尾と人間の血を持つなんて、もう半妖とほとんど変わりないだろうと言ったご主人。
今何を思い僕を撫でるのか。
見当皆目付かないまま、背中を撫でる手に酔いながら瞼を閉じた。

母様、早くご主人の力になりたいです。



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