今までは何をするでもなく、たまにお茶やご飯を一緒にしたりする、そんな付き合いだった。
相手は年下の上司で、俺は年上の部下。
何とも微妙な立ち位置同士で敬語は一向に直る気配はなかった。
「根来さん、上司命令です」
彼が突然口火を切った。
それはどこか期待していたような言葉でもあり、どこか焦る気持ちもあった気がする。
「僕と一発してください。」
つい笑ってしまったのを思い出す。
なぜ笑うんですか、そう彼が言っていたのも同時に。
(何故命令だと言っているのにこの人はお願い口調なんだろうか)
それがなんとなくおかしくて笑ってしまったのだ。
その後は恥ずかしくて口が裂けても言えない。
「…」
(あれから手も出してないし出されてもないな)
それでもその距離が丁度よく感じるのは年のせいなのか。
それともお互いがどこか謙遜し合ってこの結果なのか。
それに関してはなにが正解なのかはわからないが、現状維持が一番の幸せなのだろう。
「せめてもう一発くら…いや、なんでもないなんでもない…」
誤魔化すように煙草をつける。
それでもどこか恥ずかしいままの気持ちを知らんぷりするかのように愛銃に手をかけ、磨き始めた。
「根来さん」
彼の声が耳に入るまで。