鮮とお祭りに来た。
隣を歩く鮮は、紺色の浴衣を着て頭には今流行りの猫の仮面を付けている。
いつもと違う服装、帽子を被っていない頭。
そしてりんご飴で赤くなった唇。
チラチラと見える鎖骨と白いうなじが色っぽい。
「うみくん、聞いてる?」
「わ、悪い」
「焼きそば、買う?って聞いてたんだけど」
身長差で上目遣いになる鮮。
夜でも分かるキラキラした目に引き込まれそうだ。
今度はいつの間に食べたのか、あんず飴の水飴でグロスのようになった唇。
吸い付かれるように口を塞いだ。
「…焼きそば買おうか」
「…ご、ごめん」
「別にいいよ。行こう」
少し驚いた顔をした後、嬉しそうに目を細めた鮮。
緊張してるのか、いつもよりも遠慮がちに手を握られる。
そんなところがまた可愛く思えてしまうのだから、彼にハマって抜け出せない。
「…俺の焼きそば…」
「明日また来ればいいだろ?」
「…ちぇ…焼きそば…」
突然降り出した雨に、近くの神社へ走って雨宿りしに来た。
鮮の手にはまだ焼きそばはない。
明らかにテンションが低くなった鮮の頭を撫でると、しょんぼりとしたまま肩によりかかってきた。
猫みたいだ。
女みたいに大きな瞳。
白くてきめ細やかな肌。
艶っぽい唇に、細く伸びた指。
中性的な顔立ちに睫毛が影を落とす。
あ、また吸い込まれそうだ。
「うみくん」
「あ、っえ、何だ」
「今日、凄く積極的だね。欲求不満なのかな、うみくん」
目を細めた顔で、ニヒルに微笑まれる。
これで男なんだ、不思議だ。
また女みたいな細く白い指先が頬に触れる。
どこか遠くを見つめた鮮の顔が近づいてくる。
あ、唇が触れそう。
「うみくんいつの間に蝉の抜け殻連れてきたの?」
頬に触れていた指は後頭部へと回った。
そして鮮の言う蝉の抜け殻を払った後、その手は俺の頭を押した。
「…甘い」
珍しく積極的なのはどっちなんだと振り回してくる鮮の唇は、りんご飴とあんず飴で甘かった。
短い間のそれだったが鮮はとろりと目を閉じて余韻に浸っているようだった。
あ、凄く色っぽい。
「雨、止まないね」
「もう少し、雨宿りしようか」
「神社だし外だぞ」
「何のこと?」
「俺は雨宿りって、言ったじゃない」
知らない。
これが鮮なりの誘い方なんだろう。
神社で神様の前?知るか、神はいるもんじゃねぇ。
外?他に人はいない、何より雨だから。
階段に腰掛けた鮮の前に立つ。
階段で身長の差が埋まる、キラキラ光る瞳。
長い睫毛、柔らかい唇、そして白い肌。
全てに目移りして舐め回すように鮮を見つめていたらしい。
相変わらずの真顔がへにゃりと恥ずかしそうに頬を染める。
「近いし、見過ぎ」
でも、と耳元。
その後のたった二文字が悪戯でトリックスターの鮮にお似合いだった。
そして常識を繋ぎ止めていた枷は外れてしまった、サヨウナラ。
「誘ったのはお前だからな」
「だってうみくん格好いいから」
答えになっていないその言葉に苦笑して今度はまた自分から唇を塞いでやった。