「さよなら」
「保持、くん?」

彼が発したさよならの一言は唐突で。それでいて冷徹。重く自分にのし掛かる。

どうしたの

の一言も発せられないまま彼は方向を変え、背中を向けて歩き出した。

どこにいくの
どうしてなんだい
なんでなにも
いってくれないの

とめどなく溢れて来る何かが、何か分からないまま呆然と立ち尽くす。そうか。これが別れか。
何と無く冷静になった頭が答えを導き出す。おかしいなあ、今までは余るくらいの彼の愛情が今はぱったり途切れて。
静かなのに落ち着かない、これは何だろう。

「いつか言ってたっけ」

好き過ぎて、涙が出る。だっけ。
そんなのどうしてって、好きなら苦しくないでしょう、楽しくてハッピーなんじゃないのって。
今は少し分かるかもしれない。

保持くん。君に愛されてたように僕も君を愛していたんだよ。今は立場が逆だけど、僕は君への愛に溺れたまま、このままじゃあ。こみ上げた涙が零れて溢れて流れていくよ。

「なんで」

背中を向けた相手はまだ大好きで離れたくないんだけど、このままじゃいけないんだって昨日突然目が覚めた。

ズルズル一方的な愛を受け止めてくれる彼を利用していたのかもしれない。それでいいって思ってた、けど多分違うんだ。

自分が成長して、彼も成長しないと。そうなんだろうと決めつけて別れてしまったのは僕のエゴ。

本当は、違うんだ。
少しだけ、少しだけだけど。

(絶望する顔を見て見たいって思っちゃったんだ。)

多分、これは、歪んでる。


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