あの瞳を見てから足取りが更に覚束なくなってきた
頭は割れるように痛い
汗が体から吹き出ていることで体内の水分が少なくなってきている

(…ッ)

真っ黒に染まった瞳を目を閉じる度に思い出す
あの頃の恐怖と先程の恐怖が入り混じって全身を硬直させる
壁へ手をついたと同時に何かが目の前を過った

(あれ、は…)

恐怖から自分を救った命の恩人の顔を今思い出す
俺を待ち構えていたかのように腕を組み壁へもたれかかっている

(よう、ガキ)

「死んだ人をまた目で見てるなんて幻覚でも見てるんすかね…?」

(そうだな、俺の言ったことをちゃんと守ってずっと仕事してたみてぇだなぁ)

ゆらりと足を前へ出す
あの人の影は微動だにしない
そして俺を救ったあの声は直接頭に鳴り響いていた

「だったら…これで終わりにしますか」

(お前を仕事で呪った俺を殺して自由になるってか?)

「…」

壁と壁の間で反響する靴の音が気持ちを昂らせていた
その時既に熱は体だけではなく脳までも蝕んでいた
手に大翔を握っている感覚もない
ただ無意識に頭に響く声へ返事を返し歩を進めていた

(早く、楽になれるといいな)


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テーマ「人外ファンタジー」
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