あたしが歌えば誰かが振り向く
誰かが喜んでくれて誰かが驚く
それからそれを話すと馬鹿みたいに喜んで
それなのに何か足りない
歌って歌って歌っても
楽しくないわけじゃないのに
何か欠けたみたいに空虚な感じ
それを相談してみても
それでも何かは満たされない

「ねう」
「なんじゃ」
「お前、声」

(全然出てねぇぞ)

言われてから耳を澄ます
カスカスヒューヒューと息がすり抜けて
そりゃすっきりもしなくなるか
驚いて喜んでくれていた人たちを
何と無く裏切ったような気がして
長く伸びた黒い髪を切りたくなる

「稀世」
「うん?」
「聞こえてるならまだ戻れるよな」

きっとテストで疲れたんだ
そんなふうに思ってマスクをして
のど飴も食べてそれからそれから
生姜湯も飲んでみる不味いよ不味い
加湿器も二台動かした
水もあるやれることは全部全部
だからお願い

「また歌わせて…」

そうじゃないと
私のこれからは
何も
ないじゃないか

(突然声の出なくなった女の子のお話)

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