(困った)

探すにしても広すぎる。
途方に暮れた依澄は近くのベンチに腰掛けた。

今のこの姿は誰にも見えない。
何となく不思議な気持ちになりながら背もたれに体を預ける。
全くどうしたものか、一息ついた。

パァン

銃声の様な音がして咄嗟に目を開く。
やらしい憎らしい顔が飛び込んでくる。

「よぉ、死人さん」

兎田。
何だ、兎田か。

静かにそこを後にしようと彼の後ろに立っていた万葉の頭を軽く撫でる。

「待て待て待て待て」

ちょっと待ちなさい依澄くん。
懐かしいその様子に頬が緩む。

「何だ」
「釣れねぇな、殺さないでおいてやってるのに」
「そうですぜィ」

悪かったと一言口にして、悪いが急いでいるんだと伝える。
もう日没が近い。
未だに鍵は見つからない、大翔が心配だ。

「何か落し物ですかィ?」

万葉の言葉に説明を加えるとだっせーなーと兎田が発した。

「あ、東寺さーん」
「…よう」

何も変わらないその面子に何となく心が和んだ。
お久しぶりですと会釈をした。
特に依澄に驚いた様子はない。

「そんなの一緒に探せばいいだろうが」

世間話でもしながらよ、そうですぜィ、…一体何の話しだ。

「ありがとう」

笑った彼の顔にぎょっとしたような顔を見せてから、行くぞと歩き出した。



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