「お客様、お席へどうぞ」
突然の変わりように目を丸くしている彼女を席へ通す
(配ったチラシのオープン時間は二時間後で)
(本当はずっとニナちゃんを待ってたなんて言ったら)
(今度は何言われるのかな)
お客様一号目
なんて名目で彼女宛に作ったイチゴたっぷりのショートケーキ
甘さ控えめに作られたチョコレートに覆われたフルーツ
涼しげな色のレモンティ
全部彼女の為に用意しておいたもの
ケーキに喜ぶ姿を想像しながら席へ向かう
「お客様は記念すべき当店一号目のお客様です」
「特別なおもてなしをさせて頂きます」
「少し目を閉じて頂けますか」
目を瞑らせるのが好きねと言った彼女の前にケーキを置く
後ろへ回ってエプロンの紐を首の後ろで結んで開けていいよと伝えれば花が舞う
「これっ…」
キラキラした瞳を僕へ向けて喜ぶ彼女はまさに思い描いていたそのもの
「全部ニナちゃんのだよ、さっ食べて!」
その手にフォークを握らせてレモンティを傍らへ滑り置く
一口を運ぶ姿、幸せそうに頬を綻ばせる姿、全てが本当に嬉しくて何だか感動してしまう
ありがとう
彼女が仕事へ戻る前に聞いた一言が耳の中でこだましている
あの一言がこれまで嬉しいものか
彼女の使ったテーブルを拭きながら微笑みを落とすと本来のオープン時間になる
店内に鳴り響いた鈴の音が僕の気持ちを増幅させた
「いらっしゃいませ!」