(…あ、しまった)

両親へ花を添えようと摘んだマツバボタンを彼女の髪に差してしまった

(また採りに行くか?)
(…いや待てよ)

「トーマちゃん」

彼女のつむじに顎を乗せながらわざとガクガクしてみると痛い馬鹿野郎と腹部に鈍く痛みが走る

「何かね」
「ちょっと一緒に来て欲しいんだけどいい?」

痛みの走った部分を手のひらで撫で下ろす
痛みと同時にしゃがみ込んだ為地面に膝を付いて立ち上がる
彼女は腕組みをして俺を見下ろしていた

可愛いね、と言って彼女の腕を掴み少し嫌がらせのつもりでいきなり走り出してみる
ぎゃお!と声を上げて何をする!と言っているのには知らん顔

(二人とも喜ぶだろうな)

握っている腕に目をやると一生懸命追いつこうとしてくる彼女の顔が視界に入ってニヤける
どうせならお姫様抱っこでもすればよかったと後悔の気持ち

「何処へ行くのーー」
「もう着くから…!ほら、ここ」

目の前には綺麗に手入れされた誰かのお墓
二人分の名前が刻まれた石の前には緑の髪が風に揺れている

何時の間にか彼の手は腕から離れていてまだ熱が残っている
彼の横に立って顔を覗くと少し悲しそうな…それでいて大人の顔

「俺の両親はね、ちょっと自我の持った魔物に目の前で殺されちゃったんだけど」

突然口を開いたかと思えば初めて聞いた事実に目を見張る
(何でこんなこと黙ったままあんなにヘラヘラ生きてたの…)

「まぁ…もうそいつもいないんだけど」

少し黒くなった顔は見間違いだろう
だって今は優しく両親に微笑んでいるから

「それで今の俺だったらやっと花を添えてあげられるなーって思ったから、ここに花持って来たの」

と言うと何故かこちらに目線を向ける
彼の手元に目線を落とすがそこには花など到底見つからない
周りを見渡してみても他の方の墓だったりと花は見つからない

何言ってんの花なんてないよ

口を開こうとすると肩を引き寄せられる
突然の事に本日何度目だろうか
心臓が跳ね上がるのを実感した


「これが俺の守りたい花だよ」

「マツバボタンみたいな子だから二人も仲良くなれるから」

「だから、…」


(ありがとう)

俺を守ってくれて
俺の間違った行動を何も言わずに受け止めてくれて
俺をずっと待っててくれて

その言葉だけが言えなくて変わりに涙になって地面を濡らす

「俺幸せ者だよ」
「君に出会えて、両親にも紹介出来て」

泣いてる俺に何も言わずに何も聞かずにそばに居てくれる彼女がどうしようもなく愛しくて
目を擦って横に向き合えばまた優しく微笑んでくれた俺のマツバボタン


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