「エレク氏!おかえり!」

パタパタと小さく砂埃を上げて駆け寄ってきたのは大事な女の子

「ただいま、トーマちゃん」

手に握ったマツバボタンを軽く手で払う
指通りの良さそうな髪に手を伸ばし少し指の腹で撫でるとくすぐったそうに目を細めた

「あれ?剣ないじゃん、どうしたの?」

先程の残虐なシーンが脳裏を過る
もう家族の死は振り切った
あいつは確実にこの手で殺した
何も思い残すことはないと武器を放り投げ捨てたのだ

「ああ、あれなーちょっと古くなってて折れたからそのままにしてきちゃったんだよ」

ヘラヘラと笑いながら彼女にそう伝えると彼女も同じようにそっかーと言って笑った

(純粋無垢な子…俺には勿体無さすぎるなー…)

マツバボタンを彼女の髪に通す
自分の汚ない心とは違って透き通る空のように綺麗だ
女の子は良い
全てを受け入れてくれるような優しさがある

「可愛い、やっぱり似合うと思った」

そう言うと力無く笑う
今さっき自分の行った行為を知らないまま自分の事を好いていてくれる
それに寄り掛かって漬け込んで

(酷い奴だよな)

でも彼女がいたから表の自分をなくさずに居られた
周りを元気にさせる笑顔が俺を支えてくれた

「ごめん」
「え、なに…っ」

マツバボタンの花言葉は可憐、無邪気
両親の好きな花が彼女を表すような物だなんて

「運命にも程があるよな…」

自分の腕に収めたマツバボタンはふわりと香って鼻を通る
毎日が戦場でいつ死ぬかもわからない
それでも彼女の為に最前線へ出て少しでも彼女を守りたい

「エレク氏!苦しい!」
「これが俺の愛の大きさ凝縮したのだってば」

両親が俺を守った様に俺は彼女を守りたい

(そんなこと言ったら大丈夫だとか何とか言うんだろうな)

そんなことを思って彼女のつむじに唇を寄せた


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