振り下げた刀には血痕はない
ただその下には二つになった脱け殻のあの人がいた

(これでお前の仕事は終わりだ)

響いた声に静かに笑う

「これで終いだ、な…」

鎖のような足枷が外れて軽くなる
開放感に浸ると後ろから名前を呼ばれる

(神美山!)(依澄先輩!)

後ろへ振り向こうとした時に体が軽くなってそのまま意識が離れた

(ようガキ、久しぶりだな)
(もう仕事はしなくていいんだ)

(お前のしたいことを探せ)

「…過労死」
「…」

あいつの後を急いで万葉と追いかけて名前を呼んだ時
半分振り向いたあいつの顔は見たこともないくらい穏やかだった

あいつを止めて無理矢理にでも休ませればよかったのか
それともこれで間違ってなかったのか

「あーあ、俺の活躍する場を無くしやがってこいつ!」

あいつの机には仕事のしの字も残っていなかった
鞄に入った書類には任務完了を告げる判子の代わりにサインが入っていた

「あっちでやりたいこと見つけろよクズ」

何も見つめていないような目の写真とらしくない花の前に横たわったあいつの顔は人生一番の笑顔だと思う

(もう仕事すんなよ、じゃあな)

火をつけた線香の煙が少し目を滲ませてみせた



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