鮎川さんのおはなし
鮎川さんには思い過去とか突っ込む予定はなかったんですが適当に考えてみる
設定になる前のおええ状態なのでスルー来いよ
鮎川さーん
鮎川さんいるんでしょう
ほら開けてくれないとー
こっちから行っちゃいますよー
カツカツと革靴が遠ざかる音が聞こえた
完全にそれが消えるまで、潜んでいた押入れの襖を静かに開けて外の空気を肺へ送り込む
ほっと安堵したのも束の間
「なぁんだやっぱりいたんじゃーん」
玄関とは反対方向にある窓の外に立つ男
父の友人だ
その父はと言うと今は床に伏せている
父は優しい人だ
友人の借金を背負わされながらも懸命に働いていた
その友人はと言うと追う側の人間に何故か立っている
「ほら、俺の借金返してもらわないとさ、ね、お給料貰えないの」
まあ親戚の会社だったからよかったー
借金返して貰ったら俺のがチャラになるわけじゃん?
一石二鳥って奴よ、主に俺に対しての、だけどねー!
そう言って俺を睨み蔑んだ目に光はない
母は逃げてしまった
父は近所の方へ避難させた
何と言われようと俺はこのクズな野郎に負ける訳にはいかない
この部屋を出て逃げてしまえば、と何度も何度も思った
(思い出のある部屋を捨てるなんて出来るか)
母が逃げてしまっても、父が動けなくても、例え俺がまだ金を稼げる年だとしなくても
「お前には負けない」
そう吐き捨ててカーテンを引く
チッと舌打ちが聞こえた気がしたがどうでもいい
父はバレずに休めて居るだろうか
ふと様子が気になり、外に誰もいないのを確認してから父の元へと走った
その後ろ姿を見ている黒い影に気付かず、に
「父さん!!!!」
「あららーもうバレちゃったねー」
珍しく取り立てが来なく平和だと思って外に出ると玄関扉には張り紙が貼ってあった
(返してくれねーから別のもの貰いますね)
父が危ないと本能が言っている
急いで走りそこへ飛び込むと布団に寝転んだ父に銃口を向ける男の姿が目に入った
「やめろ!!!!!」
「だぁーって鮎川さん返してくれないんだもーん」
だからー
臓器とか売ればお金になるよ?
勿論
「若い君のじゃなくて、丁度いいお父さんの、臓器」
「だってどうせもういらなくなるじゃない」
「死ぬんだから」
あははははははと高らかに笑う男が憎くて憎くて殺したくて
そ、れ、に
と言った男の声は耳に届かない
「鮎川さん、血液型も特別でしたよね」
「俺覚えてますよ」
「これは金になるなーと思ってたんで」
笑いながら上を向いた隙に手元から拳銃を奪う
おっと俺を殺す気?
ヘラヘラと光のない目で俺を見る男が憎くて殺したくてこの手で殺めてしまいたくてたまらない
「どけ!!!」
「お前馬鹿なんじゃねーの?」
なあ知ってる?
お前のお母さんがいなくなった理由
「は?」
「やめて、くれ…」
父さんが声を絞る
呼吸も苦しいのに
「お母さんねー」
「預かってるんだよねー」
ほら、と言うと母の見たくもないような酷い姿が携帯の画面に映されていた
思い出したくないくらい
目が点になった俺を踏もうと男が足を上げる
逃げなくてはと分かっているのにショックが大きくて身体が竦んで動かない
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ぎゃははははははははははははははははは!!!!!」
痛みがない
温かい
(父さん)
「父さん!!!!!!!!!!」
俺を庇った父が俺にもたれ掛かる形で抱きしめてくれている
「ごめんな、ごめんな…白須…父さんがいけないんだよなぁ…辛かったよな、俺が…っ…!ごめんなぁ…大好きだからな、お前は俺の大事な家族で、息子で…本当は、もっと遊んでやりたかった…!のに…こんな辛い怖いことばっかり…俺の面倒も見させて…ごめんなぁ…」
泣きながらゆっくり細々とした今にも消え入りそうな声で父さんは俺に言った
涙が止まらなくてそれでいて悔しくて
背中に手を回そうとするとそこの扉が開いた
「手を上げろ」
警察だ
男は俺の落とした拳銃を拾い直し父の背中に銃口を向けていた
「父さん…」
その後父さんは病院で静かに息を引き取った
俺がもっと強かったら
母さんは警察が探してくれている
俺がもっと注意深かったら
後悔しか残らなくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて
(許さない)
俺はあの男を
会社も
それに関わる人々を
裁く立場に着きたいと思った
「少年、お前さんは過去に後悔したことはあるか?」
それを叶えてくれる人に出会うのはもう少し先