Cycling love



わたしの朝はカエルさんのゲコゲコという目覚まし時計の音で始まる。

でも低血圧だからすぐには布団から出られない。30分ぐらい布団の中でグダグダしていれば時間はもう遅刻寸前。

急いで部屋着から制服に着替えて自分の部屋を飛び出る。忙しなく階段を駆け降り、お母さんが用意してくれたトーストを右手に持ち、左手でオレンジジュースの入ったコップを握りしめ、一気に飲み、トーストを口に突っ込んで玄関まで突っ走る。

お母さんの、そんなに慌てるなら早く起きなさいよ、なんて言う言葉はもちろん無視して。

玄関で自転車のカギをチャリン、と引っつかみ、勢いよくドアをあける。駐車場の端に置いてある自転車のカギをあけて、またがり、全力でこぐ、とにかくこぐ。予鈴が鳴り響く中で自転車を学校指定の場所に無造作に置く。

いつもならここでキチンとカギをかけてから教室に向かうのだがなにぶん今日は本当に時間がない。かけなくてもいいだろう、と思いそのまま教室へ。


今日も一日なんとか学校生活を終え、帰ろうと自転車置場へと足を運ぶ。朝、わたしが時間が無いために無造作に置いた(寧ろぶん投げた、の方が正しい)自転車は何故かストッパーでしっかり固定されていて正しい形で置かれていた。疑問に思ったが、きっと見兼ねた先生か誰かがやってくれたのだろう、とわたしは考えた。

カギは朝かけていなかったのでそのままサドルにまたがる。後ろのストッパーを左足でガコンっとはずしてペダルをこいだ。いや、こごうとした。

こごうとしたわたしの足は、何故か動こうとしないペダルに耐え兼ねて空をきる。勢いあまってわたしはズルッと前に突き出された。サドルから急に落ちたせいで股がいたい。いたさを感じつつも何故ペダルが動かないのか理由を模索する。半分涙目のわたし。



「っえ!嘘、カギかかってる……」

自分のものだと思った自転車はどうやら違う人のもののようだ。では、わたしの自転車は何処へ。

辺りを探してみるもそれらしき物は見当たらない。あとに考えられる事はひとつ。この自転車の持ち主が間違えてわたしの自転車に乗って帰ってしまった、という最悪なパターン。似ているデザインだし、わたしのもこの誰かのも、名前など書いていない。間違って当然だ。

しかし誰が持っていってしまったのかわからないため、手掛かりがつかめない。さあて、どうしようか、とつぶやいたとき後ろから声が聞こえた。

「すいませーん!その自転車ってあなたのですかー?」

振り返ってみればモテると噂になっている帰国子女一之瀬一哉の姿。え、嘘、この自転車あいつの?なんて考えている間に彼はいつの間にかにわたしに近づいて来ていた。

「あのー?聞いてるんだけど、今君が持ってる自転車って君の?」

ハッと我にかえってみれば、彼とわたしはまるでキスしてしまうんではないか、というほど顔と顔が近くなっていた。顔に熱が集まるのがわかる。

「えぇえっと…いえ、わたしのでは…、」

「じゃあやっぱ俺のかな、君の自転車ってこれ?」

彼の手に収まっている自転車は紛れも無くわたしが朝邪険にあつかったあの愛車。

「ああ!はいっそれわたしのです」

「そう、よかった、ごめんね間違えて持ってっちゃった。俺のと似てるね、デザイン」

それにしても彼の顔は整っていて目が離せない。モテる訳がわかる。ジーッと彼を見つめていると、彼がハハッと笑った。

「可愛い子からそんなに見られると少し恥ずかしいんだけど。もしかして俺に惚れちゃった?」

そう言い、爽やかな笑いからいやらしい笑いに変えた。なにこいつ、相当嫌なやつじゃない。

「は?いやいや何を言ってるんですか、それは無いんで安心してください」

彼は、ふーん、そう?と言い自分の自転車にまたがった。その仕草にも少しムカついた。(だってそれすら様になってるんだもの、イケメンムカつく)

「まあ、君顔は可愛いけど、自転車はちゃんと扱わないと。なげすてるのは良くないね。物は大切にね?乱暴ちゃん」


少しでもカッコイイと思ったわたしが馬鹿だった。


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Cycling love/一之瀬


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