旅館に先に到着したシカマルとヒロイン2はとりあえず男部屋でみんなの帰りを待つことにした。しかし、もともと口数の多い方ではない2人は暇を持て余している様子。会話が無いまま十数分。そんな中先に口を開いたのはヒロイン2。


「お茶でも飲む?」
「あぁ、悪いな…」


シカマルの返事を聞き、ヒロイン2は席を立つ。きょろきょろと辺りを見回し、ポットを見つけて足を出したその時。


「うぁっ」


堂々と部屋の真ん中に転がっていたキバの荷物に足をとられ、ヒロイン2がバランスを崩した。彼女が倒れ込む、その先には……


「は?ちょ、待て、うわ…!?」



* * *


先に到着した2人に遅れること数分、後の6人も旅館に無事到着。


「あいつらちゃんと先に帰って来てっかなー?」
「あの2人はナルトと違ってしっかりしてるから大丈夫よ」
「サクラちゃぁーん……」


そんな会話を背中で聞きながらキバとヒロイン1はいそいそと部屋へ向かう。


「大丈夫、あの2人に限って何かあるわけ無ェって」
「だよね、そんな話これっぽっちも聞いてないしね」
「おう!」


一抹の不安を拭い去るようにお互いを励まし合っているうちに男部屋に到着。覚悟を決めスパーンと勢いよく入り口の襖を開ける。


「「ただいまー!!」」


2人きりの部屋の中、シカマルの腕にすっぽり収まるヒロイン2。


「「あ」」


ふたりの驚いた様な顔と小さな声を聞き、キバとヒロイン1は笑顔のまま無言で襖を閉めた。


「(え、なぁ、今の何?)」
「(わたしが聞きたい!)」
「「(やっぱあの2人って…)」」


「2人とも帰ってきてた?」


いのの問いかけにキバとヒロイン1は揃って肩をビクつかせた。


「いや、いなかった。どこ行ったんだろうなアイツら、あはは」
「あ、もしかしたら女部屋かも、あはは」


とりあえず今この部屋に人を入れてはいけないと女部屋への避難を試みたが、あえなく失敗。襖が開いてシカマルとヒロイン2が顔を出した。


「何で入ってこねーんだよ」
「何だよ二人ともいるじゃんかよ!」
「あ、いや…見えなかった、よな?」
「あ、ねっ、見えなかった!」


みんながぞろぞろと部屋に入ってくのに対し、体が言うことを聞かない先発2人はその場に立ち尽くしていた。


「あんた達入んないの?」


襖に手をかけたヒロイン2がひょこっと顔を出すとキバは慌てて部屋へあがる。


「ちょ、入る入る!!お前も早く入れよ」
「あ、うん…」
「ヒロイン1、どうかした?」
「ううん、何でもないよ」
「そう?」


ヒロイン2はヒロイン1のぎこちない笑顔に疑問を抱きつつ、後ろ手に襖を閉めた。



* * *



みんなが待ちに待った夕食の時間。特にこれが今回の旅行のメインだと豪語していたチョウジは幸せそうだ。そのチョウジの目の前には、さっき部屋で見た光景が頭から離れずに箸が進まないヒロイン1。恰好の餌食である。


「それ食べれないなら僕が食べてあげるよ」
「あ、えび……」


最後に食べようと思ってたのに。しょんぼりするヒロイン1の皿にに今し方チョウジに浚われたはずのエビの天ぷらが乗せられた。え、と驚いて顔を上げると仕方ねェなといった様子で笑うシカマルと目があう。


「おれのやるよ」
「い、いいの?」
「おう」


ちらりとヒロイン2を伺うが特にこちらを気にする風もなく彼女は彼女の食事を楽しんでいた。ヒロイン1はシカマルの好意に素直に甘えることにし、ありがとうと小さく礼を言うとエビの天ぷらに箸をつけた。片思い仲間の幸せな場面に和んだ(というのは見せかけ)キバは「おれのもやるよ」と自分の冷や奴をヒロイン1の前に差し出す。


「キバは嫌いなだけじゃん、いらないっ」


つっ返された冷や奴にキバが口を尖らせていると思いがけない相手から声がかかる。


「あたしが食べてあげるよ」


キバの目の前の冷や奴の器を手に持ったのはヒロイン2だった。


「まじで?」
「だめ?」
「いや全っ然!」


口に運びかけた冷や奴を箸に乗せたまま尋ねるヒロイン2にぶんぶんと首を振って返すキバ。ナルトの「さっさと食って風呂行こーぜ!」という声もヒロイン2に見とれているキバには届かない。