廊下で髪を撫でられ、何となく和やかな気持ちで女部屋の襖に手をかける。心なしか綻ぶ頬の内側の肉を奥歯でキュッと噛んで気を引き締め襖を開くと、床に人が転がってるのが目に入った。
うつ伏せのまま伸びきっている彼女はヒロイン1だ。
シカマルと喧嘩でもしたのか、それとも何かいいことがあったのか、まぁ多分後者だろうと思いつつもヒロイン2は呆れ半分、指でその転がる彼女のわき腹をつついた。


「…生きてる?」


先ほどの頬の綻びが完全に取れたヒロイン2が尋ねれば、精気を吸い取られたかのように倒れ込むヒロイン1はコクリと頷いた。
何故だか彼女といると本来の自分に戻れる気がする、とほっとしながらヒロイン2は彼女の横を通り過ぎようとすると、まったく動きそうになく見えていたその腕が勢いよくヒロイン2の足首を掴んだ。


「ちょ、ぅわっ!!!な、なに!?」


驚きその手の主の方に顔をやれば、相変わらずうつ伏せのままの口元から何かが聞こえてきたが、いまいちよく聞き取れず必死に耳を傾けた。


「…わたし、このまま死ぬかもしれない…」


ああ、やっぱり何か良い事があったのかと半ば呆れ気味にヒロイン1を見つつも、キバとの一件があり上機嫌なヒロイン2は珍しく彼女に優しい言葉を掛けた。


「寝るんだったら布団入んないと風邪ひくよ?」


ヒロイン2のその言葉にピクリと少し動きを見せると、顔だけを上げてヒロイン2にニヤリと笑顔を向けた。
きもっ、と呟く彼女に、ヒロイン1は負けじと問いかける。


「…何か良い事あったの?」
「……別に。ない」
「うそだ!!!」

こいつにだけはからかわれるのは御免だ、と再びヒロイン1に背を向け逃げようとするが、「聞かせろ!」と言わんばかりの目力で立ち上がり迫りくる彼女に思わず怯んだ。
勘弁して、と視線だけをそらすと今度は思い切り肩を揺さぶられる。


「うそ、うそうそうそうそうそ!!うそつき!!」
「ぅぇっ、わか、わかった、わかった言うから離せ!!」


ぐらぐら揺れる視界に耐えきれず、思わずそう言ってしまうと、ヒロイン1の動きはぴたりと止まり目を輝かせる。それと対照的に、ヒロイン2は目を細め力が抜けきっていた。
今ならシカマルの気持ちが凄いわかる気がする、シカマルファイト。とヒロイン2は心の中で呟き、遠まわしに言ってもこの子には通じないだろうとストレートに言ってしまおうと決意する。


「キバと、」
「キ、キ、キバと!?」
「キスした」
「キ、キ、キ…ッ!!!?」


ヒロイン2のそのストレートな台詞を聞いた途端、ヒロイン1は思わず後ずさり壁に激突した。あだっ!!と叫びながらも笑顔なヒロイン1に、ヒロイン2は苦笑いを向ける。


「キバってやっぱり肉食…」
「は?」
「…男って獣ね。シカマルはきっと違うと思うけど」
「…はあ」
「うん、何か、うん。わたしまで幸せ、おやすみ」


ヒロイン1は自分の片想い仲間と大好きな友人がそんなことになったなんて、と思うとヒロイン2と目を合わすことが出来ず、ぶつぶつと呟きながら布団に入る。
何なんだ、と首をかしげつつヒロイン2もそろそろ寝なくちゃなと既に寝ているサクラといのに気を使いながらそっと布団に入る。
未だ布団でぶつぶつ言ってるように聞こえるヒロイン1に布団の上から蹴りを入れてやったら、痛い!って言いながらも幸せそうに笑うヒロイン1を見てヒロイン2まで何だか可笑しくなった。

「おやすみ」と交わし、お互いの恋にお疲れ様と心の中で言う。
ヒロイン1の寝息がスースーと聞こえる中、ヒロイン2はさっき触れた唇の感触が忘れられず自分の唇を指でなぞっては恥ずかしくて思わず頭まで布団に潜った。