ヒロイン1に全力で感謝しつつ、ヒロイン2の場所へと走った。
たぶんもう、みんな部屋に戻ってんだろう。


「ウノ!」
「何ですって!?」


男部屋として使ってる部屋の扉を開けたら、風呂から出たみんなは誰かが持ってきたUNOで遊んでいた。きょろきょろと部屋全体を見渡すが、ヒロイン2の姿は見当たらない。


「あれ?ヒロイン2は?」


全力で走ったせいで激しくなる呼吸を抑え込んだせいで、あまり大きな声が出なかった。それでも一番近くに座っていたいのがこっちに気付き、振り向く。


「隣の部屋じゃな」
「さんきゅ!」


焦りすぎて、隣の部屋と聞いただけで言葉を遮ってしまった。悪ィ、いのと思いつつ、一呼吸して隣の部屋を開けたら力が入りすぎたのか思いのほか勢いよく開いてしまった。



「び、っくりした…。なに?」



* * *



今思い返せば、ばかみたいだ。
ただヒロイン1がキバを連れてどっか行っちゃっただけの話じゃないか。なに拗ねてんだろう、わたし。


カチ、カチ、と部屋の時計の音だけが響く中、突然扉が思い切り開く音がした。扉の方に目をやると、息を切らして肩を揺らすキバだけが立っていた。


「び、っくりした…。なに?」


本当はもっと驚いてるのだけど、自分でも驚くほど小さい反応をしてしまった。それよりも、ヒロイン1と疾走していた彼が目の前にいることに更に驚く。



「ヒロイン2、好きだ!」
「……は?」
「いや、だから…その、」


突然の彼の告白に、思わず冷たい反応をとってしまう。
決して拒絶したいわけではないのだけど、ただ、そんな唐突に言われてどう反応したらいいのかわからなかったのだ。もちろん、そんな反応をされたキバも困っている。


「あんたはヒロイン1のことが好きなんじゃないの?」


前々から勝手に思っていたことだった。それにさっきだって二人で抜け出して、やっぱり二人は仲良いんだと考えていたばかりだ。
そらしていた視線をちらりと彼に向ければ、ぽかんと口を開けて黙り込んでいる顔が視界に入る。


「……はぁぁぁぁ!?何でだよ!?」


数秒の沈黙から、突然彼の疑問の言葉だけが響く。今度こそびくりと肩を揺らし、その反応に思わず目を見開いた。


「何と…なく?」
「ちげーよバカ!おれが好きなのはおまえだっつってんだろ!」


バカ…?バカにバカと言われるのが一番腹が立つ。それに指差すってどういうことなの?お母さんにどういう教育されたの?


「指ささないでよ!ばかはそっちじゃん!大体にして、好きとかそんなの知らないもん!」

「っと、」


苛立ちと少しの喜び、自分でもわからない複雑な感情についていけず思わずそばにあった枕を投げつけると、いとも簡単に受け止められてしまい、思わず悔しくて俯いた。
俯いたまま彼を下から睨むように見ればニッと片側だけ口角を上げ、誇らしげな表情だ。



「何だおまえ、意外と力ねーのな」
「…うるさいし」
「…なに勘違いしてんだか知んねーけどさ、」


ぽすっ、と音が聞こえると、わたしの隣にさっき投げた枕が放り投げられていた。
俯いたまま畳の網目を見つめていると足音とともに彼の影が私に近づき、わたしの視線と同じ高さまでしゃがみこんだようで畳につけられた膝だけが見える。


「おれが好きなのは、おまえだから」


頭上でその言葉が聞こえたと思えば、彼の胸元に額が当たった。驚いて顔をあげるとますます力を込められ、思わず両手で彼の肩を押す。


「ちょ…っ、何考えてんのよ!」


強気な言葉を出しながらも、自分の頬が熱くなるのがわかって思わず下唇を噛む。

背中にあった彼の手は肩に移動し、その手すら恥ずかしくて力いっぱい肩から彼の手をはずそうとするけど、さすがに男の力には勝てない。


「離して…って、ば…!!」
「離すもんか!つーか何で怒ってんだよ!」
「べ、別に怒ってないし!」
「怒ってんだろ!」
「怒ってないって言ってるでしょ!」
「うそつけよ!!!」


再び発せられる大きな声にびくりとすると、肩にあった両手ははずされ、両手首をグッと掴まれる。
思わず後ろに下がりたくなるほどの強い視線に負けじと、わたしも彼を思い切り睨みつけた。何でわたしはこうなんだ。
本当なら彼を拒む理由なんて何もないのにここまで反抗してしまうのは、勘違いしていた自分の恥ずかしさのせいだろう。彼はなにも悪くない。


「そんなに俺の事が嫌いかよ!」


ここまで拒めば、当然の台詞だろう。
嫌い、じゃないんだ。好きなのに。口に出せないもどかしさに苛々し、一度目をぎゅっと瞑ってもう一度彼に強く視線を向けた。


「嫌いなんて言ってないじゃん!」


精一杯の言葉だった。彼ならきっと、嫌いの反対を理解してくれる。
そんな甘っちょろい自分にまた苛立ち、逃げるように顔を伏せた。


「じゃあ、さ!」


ぐい、腕を引かれ先ほど拒んだ彼の胸に抱き寄せられる。拒んじゃ駄目だ、このままでいなきゃ、自分に言い聞かせ、やり場をなくした手で彼の服をきゅっと掴んだ。今度は離すためじゃない、離れないためだ。


「好き?おれのこと」


耳元で囁かれる言葉。
初めての感覚にぞくりとし投げかけられた質問に答えなければと口を開くが、唇が震えてうまく喋れそうにない。
優しく背中を撫でるキバにありがとうと心の中で呟き、コクリと頷くだけの好きを伝え、服を掴んでいた手を力いっぱい背中に回した。


「はは、やったね」
「…ばか」


憎まれ口だけは言葉に出せるのか、と思わず自分に突っ込みたくなった。
彼の笑い声につられて思わず笑うと、背中に回る彼の腕に更に力が入る。


「くるし…っ、」
「わりっ、(可愛くて)つい…大丈夫か?」


咄嗟に体を離しわたしを気遣う彼に「大丈夫」と言って再び額を彼の胸にあてた。



* * *



みんなの部屋に戻ろうか、と彼が言った。
それなら戻ってきたらすぐ寝れるようにと布団だけ敷いていきたいと彼に告げ、布団を4つ並べていたら気付けば彼は布団の上。


「やっべ布団きもちー」
「…ねぇ、女子みんな怒るよ?」
「みんな知らねーんだから平気だろ」
「チクってやる」
「は!?勘弁してくれよ!」


くすくすと笑って枕を投げつけると、今度は彼の顔に見事に当たった。


「ってぇなー」


そう言いながらも笑顔の彼は、枕を胸に抱えながらごろごろとしたままだ。


みんなのところに行く前にトイレに行き、さっき抱きしめられたときに乱れた髪を少し直す。
何だか変なことした気分だな、と思いながら、わたしの方に背を向け寝ころぶ彼に声をかける。


「キバ?」
「…」
「あれ?ちょっとキバ寝てる?」


上から覗き込むと、予想以上に可愛い寝顔のせいで頬が熱くなる。それにごろごろ遊びながら寝てしまうなんて、何て母性本能をくすぐることをしてくれるんだろう。


「キバー?」


寝てしまった彼の横に座り、もう一度声をかける。
やっぱり、反応はない。
ふう、と一つため息をつき、起こすのも可哀想だと思いそのまま寝かしておくことにした。


「…向こう行くね?」


そう言いながら、彼の頬に触れるだけのキスをする。
素直になれなくてごめんね、の意味を込めて。