小さな輪【前編】(東条秀明)

ただ、見かけただけだった。
見たことあるな、その程度だった。

君も、俺を知らないようだった。
でも俺の親友は君のことを知っていた。

その時の君の顔は、顔を真っ赤にして彼の肩をグーパンしていた。




昼休み、暇を持て余した俺は親友の金丸信二に会いにいった。
信二は別のクラス。昼休みは彼の教室は一際うるさい。

「おいコラ沢村ッ!! 俺のやきそばパンだっつーの!」
「いいじゃねーか! 俺のおにぎりやるから!」

ほら、いつもどおりだ。

俺は躊躇せずに教室に入って、賑やかの中心へいく。
そこにはパンの取り合いをしていた二人と、それを心配そうな目で見ている小湊、そして我関せずとおにぎりを頬張る降谷。そしてーー

「ねえうるさいあんたら、近所迷惑」

信二の隣の席の黒淵眼鏡が輝いた。

「……お、おうすまねえなみょうじ」

信二が冷や汗滴らしながら謝った。沢村も呆気に取られながら軽く頭を下げる。

みょうじなまえ。一応同中らしいけど、俺は全然知らなかった。
眼鏡の奥の切れ長のつり目がひどくきつい。今はいつもの二倍ほど。

「金丸さ、すぐ後ろにお客さん待たせてるのに放置って人としてどうなの」

彼女の一言でみんな俺に気づいたらしい。一斉に首を回して俺を見た。やめて、「いつの間に」って感じの目やめて。痛い。

「人増えるのはいいけど邪魔しないでね」

そういってみょうじさんは机に向かった。
机の上には数学の教科書とルーズリーフ。次このクラスは数学だっけ。先週沢村が俺に教科書を借りにきたから覚えている。

俺もなんだかんだで野球部一年の話の輪に加わったが、先程よりも少し遠慮している感じがした。少し寂しい気もするけれど、すぐ隣でみょうじさんがまたスイッチを入れているんだ。邪魔できない。

彼女は所謂「ガリ勉」だ。
故に成績は優秀。しかし理系の分野のみ。文系はてんでダメらしい。

そんな「ガリ勉」な彼女は友達がいないらしい。いや、でも前に自分で言ってたって信二が言ってたな。
彼女自身もそれを大きな問題とは思っていない。どう見ても個人主義で一匹狼なみょうじさんはそれを逆に利点だと思っているため、他人と関わろうとしない。

しかしなぜ信二は彼女を知っているのか。理由は簡単。中学時代同じクラスで隣同士だっただけ。
意外と話してみると相性が良かったらしい。互いに嫌悪すること無く普通に用があれば声を掛け合い、暇な時は普通に談笑する仲だったらしい。

そして、それは今も続いているようで。信二が普通に女子と話しているところなんてあまり想像できないけれど、きっとみょうじさんはそういう人なんだろう。


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